ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

阿部和重・伊坂幸太郎「キャプテンサンダーボルト」/森晶麿「恋路ケ島サービスエリアとその夜の獣たち」

どうもこんばんは。桜もあっという間に散ってしまいましたねぇ。
みなさま、お花見はされましたでしょうか。
ワタクシ、今年は文京区にある六義園の枝垂れ桜を観に行って参りました。
期間限定で夜はライトアップされるというので、夜桜見物と洒落こみましたよ。
樹齢70年程の見事な大木の枝垂れ桜で、とっても綺麗でした。ただ、若干時期が
遅く、大分花が散ってしまっていたのが残念ではありましたが。
しかし、閉園が9時で、8時頃に行ったにも関わらず、すごい人でびっくりしました。
夜の庭園をあんなにたくさんの人がゾロゾロ歩いているって、なかなか不思議な光景だなぁと
思ったのでした。


読了本は二冊。
一冊づつ感想を。


阿部和重伊坂幸太郎「キャプテンサンダーボルト」(文藝春秋
本屋大賞候補にもなっている話題作ですね。阿部さんとの共作ということで、若干
読むテンションは下がり気味だったのですが、なかなかどうして、面白かったです。
阿部さんの作品を読んだことがないので、どの辺りが阿部さん色なのかちょっとよく
わからなかったのですが、全体的な雰囲気はすごく伊坂さんっぽい作品だなぁという
印象。主人公二人の性格や関係なんかもそうだし、脇役の人物造形やら終盤で主役二人が
銀行襲撃したりする辺りも伊坂さんらしい展開でしたし。
伊坂さん一人の作品って言われても、それほど違和感ないんじゃないのかなーと思いましたね。
小学生時代の親友同士が久しぶりに再会し、犬一匹と女性一人を加えて壮大なトラブルに
巻き込まれるお話・・・って、簡単に書くとそんな感じなんですが、実際はもっと遥かに
複雑な要素が絡み合ったストーリーだぢ人間関係も複雑。簡単にあらすじを書くのがちょっと
むずかしい。
これは読んで下さいとしか言いようのないお話なんですよねぇ。
ただ、間違いなくノンストップ必至のエンタメ作品になっていることは断言出来ると思う。
借金を抱えてどうにも身動きできなくなった男二人が、一攫千金を狙って巻き込まれる
トラブルの数々。一体、彼らの行く末はどうなっちゃうの!?と終始ハラハラドキドキ
しながら読んでました。
『村上病はあるけど、ない』の言葉の意味にはなるほど、と思いました。こういう情報操作が
知らないところで行われているとしたら、ほんとに国民は何を信じたらいいのかわからなく
なりますね。
少し前に、エボラ出血熱の感染が疑われた人のニュースで一喜一憂した時期がありましたが、
読んでいてその時のことを思い出してしまいました。一人の感染者からどんどん広がって行く
感染の恐怖。今回、それが人為的に行われようとしていたのだから、考えるだに怖ろしい。
もし、今回出て来た五色沼水を使ったウイルスが世界にばら撒かれたとしたら・・・
完全に世界恐慌状態になるでしょうね・・・うう、怖すぎる。でも、同じようなものが
実際どこかの国で秘かに開発されているかもしれないわけで。何か、完全に本の中の
出来事、と笑っていられない空恐ろしさを感じました。

ただ、終盤はさすがに上手く行き過ぎかなぁ。痛快に読めたことは間違いないけど、
銀行襲撃して、あんなに上手く貸し金庫まで辿り着けるってのが何とも。たまたま筒井が
その場にいたっていうのも出来過ぎてるし。まぁ、そこまではともかく、騒動が終わった後の
筒井の行動がねぇ。いくら何でも、そこまで二人に配慮してくれるってのは、やりすぎな気がする。
確かに、主役二人のその後は心配ではあったけれども、あそこまで大団円になっちゃうと、
さすがにちょっと「人生、そんなに上手く行くかい!」とツッコミを入れたくなりましたねぇ。
その辺りは、やっぱりフィクションならではのご都合主義的展開に思えなくもなかったです。
ひねくれてますかねぇ、私。
いやもちろん、主役二人には幸せになってもらいたかったから、結果的には良かったとは
思うんですけどね。うん。こうしたことで、読後感もすっきりしたしね(じゃぁ、けちを
つけるなよ^^;)。

そういえば、このお話には仙台と山形が舞台になっているのですが、仙台はもちろん伊坂さん、
山形は阿部さんの故郷なのだとか。その辺りも、きっちり仲良く二人のホームグラウンドを
登場させているのですね。
文章も、どこからどこまでをどちらかが担当して・・・って感じではなく、二人で作り上げて
完成させて行ったのだとか(一応、章ごとの担当はあったそうなのですが)。
こういう形の合作というのも新鮮で面白いですね。お二人もきっと、楽しんで書いてらした
のでしょうね。

個人的に一番好きだったキャラは、犬のポンセなんですけどね(って、結局本当は何て名前
だったんですかね、この犬。昔のプロ野球の助っ人外国人の名前って^^;)。要所要所で
いい味出してて、相葉と井ノ原に対する態度が対照的なのが笑えました(笑)。でも、何だ
かんだで相葉のことも気に入っているのではないかしらね(笑)。

さすがに時間かかりましたが、読みきれて良かったです。読み応え十分のエンタメ小説でした。
面白かったです。



森晶麿「恋路ケ島サービスエリアとその夜の獣たち」(講談社
森さん最新作。それにしてもコンスタントに作品が出る作家さんですねぇ。こんなに量産型の
作家さんだとは思わなかったなー^^;
しかし、今回の作品は正直がっかりな出来だった。読みやすいのですいすい読めてしまうのは
いいのだけど、その分中身が薄い。とにかく、設定がめちゃくちゃ。一体、何が書きたかったの
だろう・・・。サービスエリアを封鎖して、動物を投入する意味がよくわからない。いや、
犯人にはちゃんとした意図があったことはわかるのだけど・・・もっと違うやり方がいくらでも
出来たような・・・。そこによくわからない殺人事件を織り込ませたせいで、余計にストーリーが
散漫な方向に・・・。ミステリ的な仕掛けがいくつか入っているのはいいのだけど、それに
感心するよりもストーリー展開の酷さの方に目が行ってしまうので、作品自体の印象がよくなる
ことはなかったですね。
登場人物のキャラ造形もなんだか中途半端だったしなぁ。美野のキャラなんて、モロにあの
干されちゃった某ミリオネアの司会者そのまんまだし(名前まで)。
清掃士マキノの正体も、ちょっと期待外れだったしなぁ。途中で出て来るマキノの断章の部分は
完全に騙されていたので、その部分だけは感心したけれども。なんかキャラ違うなーとは思って
たんですけどね。
でも、一番脱力したのは、やっぱり突然動物が登場するところかなぁ。なんでサービスエリアに動物!?
って、その突拍子もなさに引いてしまった。途中、ファンタジックな展開になるのかな?と嫌な
予感も過ったものの、それはなくてほっとしたけど。
トラを前にした主人公理代子の芝居がかったセリフにも引いてしまった。なんでいきなりトラに
自分の身の上を語るんだ!?そんな悠長なことをしている場合か!とツッコミたくなってしまった(苦笑)。
なんか、この主人公、悲劇のヒロインの自分に酔ってる感じがして、あんまり好きになれなかったな。
主役の割に影が薄かったしね。
うーん、なんか、久しぶりに黒べるこ登場になってしまったな。森さんの作品って、どうも黒猫
シリーズ以外のやつとは合わないような・・・。それでも出ると読んじゃうんだけど・・・。
今回のは、今まで読んだ中で一番酷かったかも^^;
何かいろいろ、違和感ばかりを感じる作品でした。辛口評価ですみません^^;