ミステリ読書録

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東野圭吾/「ラプラスの魔女」/角川書店刊

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東野圭吾さんの「ラプラスの魔女」。あ・

作家デビュー30周年記念作品――彼女は計算して奇跡を起こす。円華という女性のボディガードを
依頼された元警官の武尾は、彼女の不思議な《力》を疑いはじめる。同じ頃、2つの温泉地で
硫化水素事故が起きていた。検証に赴いた研究者・青江は双方の現場で円華を目撃する――
(紹介文抜粋)。


東野さん書きおろし最新長編。出版社HPに『今までの私(東野さん)の作品をぶっ壊して
みたかった』みたいな著者のコメントが載っていたのですが、一体どの辺りがぶっ壊されて
いたんでしょうか・・・。それほど、今までの作品と変わっているかなぁ??割りと、
東野さんらしい作品って感じがしたんですけど。
理系トリックがメインだし、気が強そうで性悪そうな美女も出てくるし。空想科学ミステリ
ってところが、強いていえば今までとはちょっと趣を変えているところでしょうか。
視点がいろいろ変わる構成なので、誰が主人公っていうのがはっきりしない作品なのですが、
強いていえば、円華がヒロインになるのかな。一応タイトルは彼女を指しているのだし。
ちょっと特殊な能力を持った女の子で、なかなか掴みどころのない性格をしています。
でも、彼女が主役かって言われると、なんかそれも違うような。彼女中心に物語が進んで
行くのは間違いないのですが・・・。
発端は、D県にある赤熊温泉で起きた硫化水素による死亡事故。年の離れた夫婦が滝を
見に登山道に踏み入ろうとしたところ、途中で妻が忘れ物に気づく。彼女が忘れ物を旅館に
取りに行って同じ場所に戻って来たところ、夫が倒れていたのだという。周囲には硫黄の
匂いが漂っていた。夫はその後死亡。調べてみると、硫化水素のガスによる中毒死。
夫は有名な映像プロデューサーの水城義郎だった。刑事の中岡は、この事件が起きる
少し前に、被害者の母親から手紙を受け取っていた。その手紙には、息子が若い妻に
金目当てで殺されるのではと案じる旨が綴られていた。中岡は、この事件は単なる事故
ではなく、故意によるものなのではないかと考え始める。そこで中岡は、専門家の
意見を聞く為、地球化学の専門家・青江に話しを聞くことに。青江は、中岡の訪問の前に、
今回の事故の原因を調べて欲しいと頼まれて現地を訪れていた。中岡の話を聞いて、
青江は今回のような事故が人為的に引き起こされる可能性はほとんどないと言う。
しかし、全く違う温泉地で、今度は俳優が同じような硫化水素による中毒でなくなる
事故が起きる。中岡の話を聞いていた青江は、次第に二つの事件は単なる事故では
ないのではないかと思い始め、調査に赴くことに。俳優が死んでいた現場を訪れると、
そこで一人の少女を見かける。その少女は、青江が赤熊温泉の事故を調査していた時にも
見かけた少女だった。彼女は現場の立入禁止区域に入っていたのだ。硫化水素事故が起きた
二つの現場で同じ人物を見かける――不審に思った青江は少女に声をかけるのだが――。

なかなか複雑なあらすじで、説明するのが難しい^^;しかも、いろんな視点から
語られるので、場面があちこち転換するし。とはいえ、ストーリー的にはそれほど
難解な訳ではなく、するすると読み進められるお話ではあるのですが。
二つの温泉地での硫化水素事故がどうやって起きたのか、実は、ミステリーの核と
なるのはそこではありません。そこの部分の真相は、ミステリー的解決を期待すると
かなり肩透かしになっちゃうんじゃないでしょうか。
どちらかというと、ミステリー的要素は、甘粕才生という映画監督の家で起きた
硫化水素事故の真相の方でしょうね。そっちも、一部腑に落ちない部分もありました
が・・・。
そちらの真相は、到底普通の人間の感覚では受け入れられないものでした。人間らしさの
かけらもない、こういう動機が何より怖い気がしますね・・・。
まだ、怨恨とか、お金がらみとか、そういう方が人間味があって納得出来ます。
先天的にこういう欠陥がある人間がいるんですね・・・嫌だなぁ。サイコパスみたいな
ものでしょうか。

円華や謙人のような能力があれば、自然災害に対する予報や予防に非常に役立つ
でしょうね。
タイトルのラプラスとは、フランスの科学者の名前。『物質のあらゆる状態を知る
ことができるならば、未来は計算によって予測出来る』という概念を提唱した方
だそうです。
例えば、サイコロを振って、何の目が出るのか、振る直前の条件を瞬時に頭で
計算して、何の目が出るのか言い当てられる、とか、クレーンゲームでどうやったら
商品が落とせるのか瞬時に判断出来るとか。
本書に出て来る円華や謙人は、脳の手術によって、その能力が備わっているのです。
なんか、へたに未来の予測が出来てもねぇ・・・。知らない方がいいことも多い気が
するなぁ。
でも、気象の変化がわかるのは羨ましいかな。傘がないのに突然の雨に降られた時の
途方にくれた感じとか、味わわなくて済む訳ですしね(笑)。

ラストはちょっと消化不良かなぁ。一番不満が残るのは、刑事の中岡でしょうけど。
真相に肉薄していながら、あの結末だもの。青江にも裏切られた(という言い方は
語弊があるかもしれませんが^^;)し。何だか気の毒になりました^^;
円華と謙人がこれからどうなるのかも気になりますね。

今回、あんまり好感持てるキャラはいなかったのだけど、円華のボディーガードに
雇われた武尾のキャラは好きだったな。もうちょっと活躍させてあげて欲しかったかも。
終盤でちょっと見せ場がありましたけどね。円華とのやりとりとか、もうちょっと
たくさんみたかったです。
謙人のキャラも、もう少し内面まで掘り下げていたら、新たなタイプのダークヒーロー
みたいな印象になったかもしれないけど、ちょっと薄かったかなぁ。でも、彼が父親と
同じ欠陥を持っているとは思えないんだけどな。終盤のある人物との対面シーンで、
一緒にいた人物を逃がそうとしているし。同じタイプの人間だったら、見殺しにして
いるんじゃないだろうか。それとも、程度の問題なのかな。

理系ミステリなので、どこかでガリレオ先生が出てくるんじゃないか、とちょっぴり
期待したりもしたけど、さすがにそれはなかったな^^;空想科学じゃ、分野が全然
違うのかしらん。
そういえば、どっかの文芸雑誌で、これのスピンオフ作品が掲載されているらしい。
どんな内容なのか気になるなぁ。いつか本にまとまるかな。