ミステリ読書録

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恩田陸/「消滅 VANISHING POINT」/中央公論新社刊

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恩田陸さんの「消滅 VANISHING POINT」。

202X年9月30日の午後。日本の某空港に各国からの便が到着した。超巨大台風の接近のため離着陸は
混乱、さらには通信障害が発生。そして入国審査で止められた11人(+1匹)が、「別室」に連行される。
この中に、「消滅」というコードネームのテロを起こす人物がいるというのだ。世間から孤絶した
空港内で、緊迫の「テロリスト探し」が始まる!読売新聞好評連載小説、ついに単行本化(紹介文抜粋)。


恩田さん最新作。読売新聞で連載されていた時、ちらちらっと何回かは読んだことがあったの
だけれど、途中でわけわかんなくなって読まなくなっていたら、いつの間にか終わっていた
という^^;
通して読んで、こんな話だったんだー!と、かなりびっくりしました(笑)。細切れに
読んでた時は、空港での話ってことくらいしか把握出来なかったんで^^;
500ページ以上の長編ですが、リーダビリティ抜群なので、後半はほぼ一気読みでした。
面白かったのは間違いないのですが、ラストは正直賛否両論だろうなぁ、と思いましたね。
というか、否定派の方が多いんじゃないかしらねぇ。あそこまで引っ張って、あのオチかーい!
みたいな、脱力系っていうんでしょうか。まぁ、何とも恩田さんらしい終わり方とも
云えるのですけれど。
舞台は、台風が接近する日本の国際空港内。各国から到着した便に乗っていた乗客たちが
入国審査で長い列を作る中、何人かが通過を止められ、別室に連行されてしまう。その数、
11人。そして、なぜか一匹のコーギー犬も。別室に集められた当人たちは、この中に
テロリストが一人混じっていると告げられ、それが誰なのか捜し出すこ とを迫られる。
携帯がつながらず、台風による高波が迫る極限状態の中、テロリスト捜しが始まった――
と、こんな感じ。

ある意味クローズドサークルものでしょうか。閉ざされた部屋の中で11人の老若男女が
一人のテロリストを捜す為、あれこれ話し合う、という。殺人でこそないけれど、これから
テロを起こす人物を推理するという意味では、犯人当てみたいなものですから。恩田さんの
作品には多い、戯曲風とも云えるかも。ほとんど場面が変わらないので、舞台劇でも
やれそう。長いから、そうとう端折らないとダメだろうけど(苦笑)。
人数が多いので、最初は特に誰が誰だか把握するのが大変でした。特徴的な人物は最初から
わかるのだけど、名前と外見が一致しない人物も多くて、混乱しました。群像劇形式で
視点も次々変わるしね。途中からは、だいたいは把握出来るようになりましたが。
テロリストを特定するという緊迫した状況の筈なんですが、何人かのキャラのせいでか、
それほどシリアスな感じにならないのが面白い。特に、キャスリンのちょっととぼけた
キャラクターが妙に場に弛緩した空気を作るんですよね。このキャスリンがいろんな意味で
特殊なキャラなんですけども。その正体には面食らわされたなぁ。実際、キャスリンみたいな
存在がどこかに紛れ混んでいたら、怖いなーとは思いますね。便利ではあるのでしょうけど。
でも、近い未来には現実になりそうだなぁ。

集められた男女のうち、何人かは何かありそうな思わせぶりなエピソードが出て来るので、
最後まで誰がテロリストなのかわかりません。っていうか、本当にこの中にいるの!?って
思いながら最後まで読みました。みんな全くそれっぽくないんだもの。
最後まで引っ張る吸引力はさすがなんですが・・・うーん、いかんせんあのオチ。ただ、
確かにあの人物がそうだった、というのは一番納得が行くものではあるんですが・・・。
少年のあの能力は、もうちょっと作品にからめて欲しかったなぁ。あの子の物語は、
それだけで1冊本になりそうではありますね。将来大物になりそう。凪人を父親だと
言い張った理由にはずっこけましたけど^^;

あと、十時(ととき)のキャラは気に入ったので、もうちょっと他の作品でも読んでみたい
です。グリニッジ標準時ちょうどとか、日本にいてわかるものなんでしょうかね?父親か
母親がそういう機能付きの時計でもしていたのかな?
ラスト、気があった三人で例のお店に行くエピソードが良かったな。連絡先も交換してるし、
これからも付き合いが続きそうでちょっと嬉しくなりました。

そういえば、同じ言葉を同時に言った時にハッピーアイスクリームと唱えるとか、
くじ引きの時にいい籤を引くおまじないを手で形作るのとか、懐かしい要素がいっぱい
出て来てニヤリとしちゃいました。私の子どもの頃は、籤じゃなくて、じゃんけんの
時にやってたけどね。





以下、ちょっとネタバレ。未読の方はご注意を!
















腑に落ちなかったのは、集められた男女の共通点が品川駅のカフェで同じ日にICカード
使っていたというところ。いくら何でも、そんな偶然あるかい、と。普段から海外に渡航
している人たちが、その日だけたまたま日本に帰って来て、同じカフェに入っていた、
なんて、いくら何でも偶然がすぎるのでは。それに、その人たちがまた、同じ年の同じ日に
海外から同じ空港で同じ時間帯に帰国、とか、さらに天文学的な数字になっちゃうと
思うんですが。
そして、何より気になったのは、彼らがカフェに行ったその日に、スコットも利用
していた筈で、何しに日本に来ていたんでしょうか?その時は例の騒動が起きる前だろう
から、帰国自体は出来たのかもしれませんが・・・。うーん、謎。
その辺り、作品内で触れられていないのがちょっと不満でした。
まぁ、腑に落ちない点といえば、他にも山程あった気がするんですが・・・
そういうのが残るところが、恩田作品の醍醐味とも云える訳で(笑)。
あんまり突っ込んじゃいけないのかなーって気はしました(笑)。

それにしても、世界を変えるかもしれないものが、アレとアレだとは・・・。
まだ耳の方はわかるんですよ。でも、歯の方はねぇ。どうやって使うのよ^^;
もうちょっと何かなかったのかなぁ、と思っちゃいました(苦笑)。



















十分面白かったんですけどね。このもやもやが残る感じは、ああ、恩田さんだなぁ、と
ある意味感慨深いものがあったかも・・・なんせ、前作(『ブラック・ベルベット』)は珍しく
きれいに伏線が回収された作品だったからさ(笑)。
まさしく、『これぞ、恩田陸という作品と云えるかもしれません(笑)。