ミステリ読書録

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湊かなえ/「リバース」/講談社刊

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湊かなえさんの「リバース」。

深瀬和久は平凡を絵に描いたようなサラリーマンで、趣味らしいことといえばコーヒーを飲むことだった。
その縁で、越智美穂子という彼女もできてようやく自分の人生にも彩りが添えられる。と思った矢先、
謎の告発文が彼女に送りつけられた。そこにはたった一行、『深瀬和久は人殺しだ』と書かれていた。
深瀬を問い詰める美穂子。深瀬は懊悩する。ついに“あのこと”を話す時がきてしまったのか、と
(紹介文抜粋)。


湊さん最新作。ちょっと予約に乗り遅れてしまったので、大分待たされました。でも、
読み始めたらほぼ一気読みで、あっという間に読み終わってしまいました^^;
ネット検索してたらどなたかのレビューにあったのですが、男性が主人公というのは
湊作品で初めてなのだそうですね。今まで全部女性が主人公だったのかー。言われてみれば、
そうかも。

主人公は平凡でうだつのあがらないサラリーマンの深瀬。学校のクラスにいたら、間違いなく
ヒエラルキーの最下層にいるようなタイプ。高校までほとんど友達のいない学生生活を送って
いたけれど、大学に入って初めて親友と呼べるような友人が出来て、楽しい大学生生活を
送っていた。けれど、ある日を境にそれが激変してしまう。そして、その辛い過去を抱えた
まま時は過ぎ、今現在は事務用品の会社で営業の仕事に就いている。そんな深瀬の唯一の
特技がコーヒーを美味しく淹れること。豆から買って、自分でドリップする。会社でも、深瀬の
淹れるコーヒーは好評で、みんなの為にコーヒーを淹れるのが彼の日課だった。そしてまた、
冴えない日常の中で、深瀬が唯一心安らげる時間が、お気に入りのコーヒー豆専門店でコーヒーを
飲むことだった。深瀬は、その行きつけのコーヒー店で美穂子という女性と出会い、付き合い
始めていた。その美穂子から、ある日深瀬は彼女の元に送りつけられて来たという一通の告発状を
見せられる。そこには、『深瀬和久は人殺しだ』という文章が――過去の罪と向き合うべき
時が来たのか。深瀬は、大学時代に起きたある出来事のことを美穂子に告げる。それを聞いた
美穂子の反応は――。

こういうタイトルの作品っていうのは、大抵がラストであっと言わせる反転があるものですが、
この作品もしかり、でした。ラスト、少し光が見える展開かと思いきや。ラスト一行ですべてが
覆るフィニッシングストロークものでした。むぅぅ、黒い。久々に、直球の黒さだったんじゃ
ないでしょうかね。湊さんの本領発揮とも云えるのかも。
ただ、なんとなくこういうオチになるんじゃないのかなーって予感はありました。ちょこちょこ
気になる伏線らしきものは出て来てましたしね。
広沢が、一人我を通して蕎麦ではなくカレーを食べたがった理由も、多分そんな理由なんじゃ
ないかな、とは推測出来ましたしね。
ただ、広沢の死の原因となるものがアレだったとは思わなかったなぁ。私は最初、ある人物が
出した携帯のメールの方だと思ってたんですよね。でも、携帯は燃えてしまって証拠が残って
いないから、違うのかな、と思い直したりして。あっちがそうだとは思わなかったなぁ。盲点でした。

ヒエラルキーの中の弱者である深瀬が、どちらかといえば強者に近い立場にいる広沢や村井や
浅見たちに対して引け目を感じて卑屈になってしまう気持ちには、私も学生時代どちらかといえば
深瀬よりの立ち位置だったので、共感出来る部分も多かったです。まぁ、深瀬ほど他人に対して
卑屈になることはなかったので、あまりにも深瀬の性格が鬱々としているので、若干イラっと
した部分もありましたけど^^;
終盤、広沢の深瀬に対する本心がわかって嬉しかったです。広沢は、ほんとに懐の深い良い人
だったのだろうな・・・。お互いに、思いの内を打ち明ける機会がなかったことが残念です。

この作品のキーポイントは、最初から最後までコーヒーとはちみつでした。表紙も、読む前は
単なる水玉模様だと思っていたのだけど、よく見るとコーヒー豆なのね。
コーヒーにはちみつを垂らす、というのは、他でも読んだ覚えがあるなぁ。やったことないけど、
本当に美味しいのだろうか。味がぶつかりそうな感じもするんだけど。
実は私も最近コーヒーミルを入手しまして。自分でガリガリと挽いた豆で淹れると、ほんとに
全然味が違うんですよね。豆も知人のハワイみやげで、かなり高級なものらしいので、
そのせいもあるかもしれませんが。深瀬の淹れるコーヒーは飲んでみたいなぁ。会社に
こういう人がいたらとても有り難いだろうな。毎日専門店ばりの美味しいコーヒーが
飲めるんだもの。
あとは、無性にカレーも食べたくなりました。そして、その欲望に抗えず、昨日の夕食はカレーに
したという(爆)。

真実に気づいてしまった深瀬が、これからどうなるのか、非常に気になりますね。
そして、美穂子との関係も。あのラストさえなければ、元サヤに戻れそうかな、と喜んで
いたのですが・・・。
非常に苦い結末ですが、久々に湊さんらしい作品だったように思いました。
面白かったです。