ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

額賀澪/「タスキメシ」/小学館刊

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額賀澪さんの「タスキメシ」。

陸上の名門高校で長距離選手として将来を期待されていた眞家早馬(まいえそうま・高3)は、
右膝の骨折という大けがを負いリハビリ中。そんな折、調理実習部の都と出会い料理に没頭する。
一学年下で同じ陸上部員の弟春馬、陸上部部長の親友助川、ライバル校の藤宮らは早馬が戻って
くることを切実に待っている。しかし、そんな彼らの気持ちを裏切って、心に傷を抱えた早馬は
競技からの引退を宣言する。それぞれの熱い思いが交錯する駅伝大会がスタートする。 
そのゴールの先に待っているものとは……。


新聞広告で見かけて、面白そうだと思ったので借りてみました。ちょっと変わった
角度から書かれた箱根駅伝ものだと書いてあったので。タイトルから、箱根駅伝
出場する選手の食事を担当する人物の物語なのかなーと想像していたのですが。
その想像は一部は当たっていたけど、大部分は全然違っていました。
というか、箱根駅伝のシーン、最初と最後くらいしかなかった^^;
箱根駅伝ものを期待すると、ちょっと肩透かしを食らうかもしれないです。駅伝に
出る選手の食事を主人公が作る、というのは間違っていなかったのですけども。
主人公は、陸上の名門校で将来を嘱望されつつ、怪我によってリハビリ中の
長距離選手、眞家早馬。リハビリをしなければいけないのに、なかなか気持ちがついて
行かない日々が続いていた。そんな中、調理実習部の井坂都と出会い、一緒に料理を
することに。早馬は、自分が抜けた後陸上部のエースになりつつある一つ下の弟、
春馬の偏食を治す為、料理の腕を上げたかったのだ。しかし、春馬は兄には料理よりも
陸上に戻って来て欲しかった。二人と同じ陸上部で早馬の親友・助川も、早馬に対して
複雑な思いでいた。そして、都は都で、早馬に料理を教えながら、胸に抱えるものがあった。
それぞれの思いが行き着く先は――。



以下、ラストについて言及しています。未読の方はご注意下さい。






爽やかな青春小説なのは間違いないのですが、ちょっといろんな要素が入り
過ぎて散漫になっちゃったかな、という感じがしました。箱根駅伝ものとしても、
料理小説としてもちょっと中途半端だし、恋愛も友情も、どうせ入れるなら、
もうちょっとしっかり絡ませて欲しかったなぁ。都が好きなのは、結局あっちの
人物だったってことですよねぇ。そこの描写もちょっとはっきりしなかったですし。
結局、主人公早馬がいかにして陸上を諦めたか、という話に終始していたのがちょっと
残念でした。どうせこういうタイトルにしたんだったら、もっと春馬の為に作るお料理
中心の話にしちゃっても良かったんじゃないのかな。早馬が作るお料理で、春馬の
偏食が治って、箱根に出られるまでの身体になった、みたいな展開の方が、狙いが
すっきりしていて良かった気がするんだけどな。
それか、せめて最後、箱根駅伝のシーンで、春馬か助川か藤宮のうち、誰かの襷を
受け取るのが早馬だったら、ドラマがあって良かったと思うんですが・・・引っ張った割に、
ああいう結末かーって感じでした。
まぁ、実際学生時代に故障して、そのまま引退する選手はたくさんいるのだろうから、
こういう結末の方がリアリティはあるのかもしれないですが。挫折をしても、早馬は
違う目標を見つけた訳だし。前を向いて進んで行こうとしているのは間違いないの
ですから。
あと、視点や時系列がかなり前後するので、ちょっとわかりづらかったです。
そこはもう少し整理して書いて欲しかったなぁ。

都と早馬が作るお料理は美味しそうでしたね。和食が作れる男子って、かなり
ポイント高いですよねぇ。しかし、料理研究部の部員が一人ってちょっとありえないような。
女子ならもっと入る人いそうだけどなぁ。
その割に、あんな風に毎日食材買って料理出来るって、結構部費がもらえないと
無理な気が。野菜は生物教師の稔の畑でもらえるとしても。それとも、都が
自腹で出しているのだろうか。って、こんなところで引っかかるの私くらいか。
ひねくれててすみません^^;;


箱根駅伝を題材にした小説といえば、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』という
素晴らしい傑作があるので、あれと比べちゃうと、やっぱりちょっと食い足りない
印象はあったかな。駅伝の魅力を伝えるような小説ではなかったので・・・。
読みやすかったですし、面白く読んだのは間違いないのですけどね。