ミステリ読書録

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下村敦史/「失踪者」/講談社刊

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下村敦史さんの「失踪者」。


2016年、ペルー。山岳カメラマンの真山道弘は単身シウラ・グランデ峰を登っていた。10年前、
クレバスに置き去りにしてしまった親友・樋口友一を迎えに来たのだ。長い間待たせて悪かったな
―クレバスの底に降り立ち、樋口を発見した真山だったが、その遺体を前に驚愕する。極寒の
クレバスに閉じ込められた遺体は、歳を取ることなく凍りついてしまうはず。しかし、樋口は
明らかに10年前より年老いていたのだ!まさか、樋口はあの時生還していたのか?(紹介文抜粋)


乱歩賞受賞の『闇に香る嘘』以来、追いかけている下村さんの最新作。『生還者』に
続く、氏の山岳ミステリー第二弾。とはいえ、『生還者』とは特にリンクがある訳では
ありません。今回も、山の魅力や厳しさを十二分に味わえる力作だと思います。山岳
ものが特に好きな訳ではないのだけれど、なぜか好きになる作家が山岳ものを書く
ケースが多く、自然と山岳ものを読む機会も多くなってしまった^^;下村さんの
作品は、最近の山ガールが好むような低めの山ではなく、山登りのプロが目指す
ような数千メートル級の山が出て来るので、生と死を分けるような山登りの厳しさ
や迫力がひしひしと感じられて、読み応えがあります。これぞ、山岳ミステリ!
って感じですね。
山岳カメラマンの真山は、10年前に一緒に山に登り、クレバスに置き去りにして
しまった友人樋口の遺体を見つけにペルーのシウラ・グランデ峰にやって来る。
思惑通りの場所に遺体はあったが、真山は遺体を見て驚愕する。遺体の樋口が、明らかに
年を取っていたからだ。樋口は10年前に死んだ訳ではなく、あの時生還し、再び
同じ場所で死を迎えたとしか思えない。一体なぜ遺体は年を取っていたのか――。
現代(2016年)と、いくつかの過去が交錯する構成になっています。
大抵どれも山に登っているので、時々これ何年前の話だっけ?と若干混乱した時も
ありました^^;いや、ちゃんと読んでれば混乱することはないと思うのですけどね。
ミステリとしてもなかなか面白かったのですが、それよりも、主人公真山と、山登りの
天才樋口との男の友情の部分の方にぐっと来ましたね~。他人を受け入ない孤高のクライマー
だった樋口が、真山と出会うことで、誰かと山を登ることの魅力や楽しさを知って、
真山の存在がかけがえのないものになって行くところが良かった。それだけに、
彼らの決裂が悲しかったけれど。こういう、唯一無二の存在同志が道を別つのは
辛いですね。彼ら二人には、ずっと一緒に山を登っていてほしかったなぁ・・・。
どのみち、樋口の側の事情から、それは叶わないことだったと今ならわかるのだけれど・・・。
10年前に死んだ筈の樋口の遺体が、年を取って同じ場所にいた理由には、胸が
締め付けられる気持ちになりました。こんなに強く悲しいメッセージがあるだろうか。
10年前、彼が頂上に登った時に真山に言おうと思っていたことは一体何だったのかな。
榊とのことなのか、自分のことなのか・・・私は、何となく、真山とまた山に登りたい
と言いたかったんじゃないかな、と思いたくなりました。またペアを組んで、目標の
頂きを目指したい、と。彼の時間は迫っていたから。真山が山よりも仕事を選んだ時、
本当は凄くショックだったんだろうな・・・。でも、安定した社会人を選んだ真山の
気持ちもよくわかりました。恋人との将来のこともあったでしょうしね・・・。
ただ、その、真山の恋愛の部分は別になくても良かった気がしましたけどね^^;
まぁ、恋人にするには、真山や樋口のような男だとかなり問題あるでしょうねぇ。
恋より山優先なんだものね。命の危険も伴うから、ずっと心配してなきゃいけないしね。
榊と樋口の山登りに関する秘密は、なんとなく途中でピンと来るものはありました。
あんなにクライマーとして優秀だった樋口が、あんな情けないリタイアを何度も
繰り返すのは、明らかにおかしいですからね。

とにかく、山の情景描写がリアルで迫力ありました。こういう山岳ものを読む度に、
山って怖いなぁと思いつつ、その怖い思いをして、死ぬような思いをして、たどり着く頂点
というものを見てみたくもなったりするんですよね。
ま、実際には絶対登らないけどね(苦笑)。
今回も、読み応え十分でした。面白かったです。