ミステリ読書録

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大崎梢/「よっつ屋根の下」/光文社刊

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大崎梢さんの「よっつ屋根の下」。

父の転勤をきっかけに、親子四人はそれぞれに思い巡らす。家族と自分は、どっちが大事?
勤め先の大病院の不祥事隠蔽を批判し、犬吠の地方病院に飛ばされた父。
製薬会社に関係の深い実家を気にして、父についていこうとしない母。
都会暮らしが好きなのに、父をひとりにできなくて、ついていった僕。
お母さんを責めないで!と言いながら、密かに自分を責めていた妹。
たとえ自分は離れても、いつまでもそこにあってほしい、ぼく
たちの「家」。
それは、わがままだろうか(紹介文抜粋)。



大崎さんの最新作。
内科医の父の転勤をきっかけにばらばらになった家族四人の物語。
病院の不正を告発し、銚子に飛ばされた父・滋。
その父と共に銚子にやって来た長男の史彰。
夫の家族に対する裏切りが許せず、また、東京の自宅に拘った結果、別居生活を
選んだ母・華奈。
その母と共に東京の生活を選んだ長女の麻莉香。
それぞれを主人公にした物語が収められており、最終話は再び一話目と同じ史彰
視点に戻って、家族のその後が描かれます。
一話目の史彰の話のみアンソロジーかなんかで既読。あの物語に、その後のお話が
あったとは知りませんでした。史彰の話を読んだ時は、田舎の町をバカにしたような
態度の母親に嫌悪しか覚えなかったのですが、三話目の彼女自身の話を読んで、
大分印象が変わりました。彼女にも、彼女なりの鬱屈があり、銚子行きを拒む
理由があったのでした。まぁ、基本お嬢様育ちなので、田舎暮らしが合わないのも
原因の一つではあったのでしょうけれど。
父親の転勤から最終話までは10年の月日が流れています。最終的に、四人の家族は
それぞれに別の場所で生きることになります(だから、よっつの屋根の下って訳ね)。
けれども、最後まで読むと、それぞれに生きる道を見つけて離れて行ったとしても、
家族は家族。帰るべき家は一つ、というのがわかる。ただ、それがわかるまでに
ちょっと時間かかりすぎって気もしましたが・・・一番、家族が一緒にいるべき時期に
ばらばらっていうのはね。子供の成長の為にも、もうちょっと途中でなんとか
ならなかったのかなぁ、とは思いました。だって、家族がちゃんと話し合えば
もっと早く誤解とかわだかまりとか解けたんじゃないのかな。せっかく家族が
歩み寄れた時には、子供が巣立ちの時期に差し掛かり、母親は母親で自分のやりたい
ことを見つけて家を離れることになるって・・・^^;まぁ、そこをまとめる長男がいて
良かったですけどね。ちょっと他とは違うけど、これもひとつの家族の形なのかな、と
思いました。
お話的には、既読だった史彰のエピソードが一番好きかな。慣れない田舎町に行って、
トラブルを乗り越えたことで、かけがえのない友人が出来るという、爽やかな少年の
成長物語。ワンコの春が可愛らしかったなぁ。友人の佐丸のキャラも良かった。
子供時代にこういう友人が出来るってほんとに宝ですね。最終話で成長した彼らが
まだ連絡を取り合っていることが嬉しかったです(それぞれに進路はばらばらだけど)。
あと、春がまだ元気だったことも嬉しかったなぁ。
高校生になった麻莉香の物語には、ちょっと意表をつかれました。女子ばかりの
学校だと、こういう感じになっちゃうのかな、やっぱり。基本、麻莉香の言動には
全く共感出来なかったのだけど(というか、ちょっとイライラさせられた)、
カノンに父親のことを言われた時の、きっぱりした言葉にはスカっとしました。
最終話で高校卒業後の麻莉香の進路を知って、彼女はただ、本当に正義感に溢れた、
真面目で真っ直ぐな子なんだということがわかりました。多分、そういうところ、
父親似なのかもしれないですね。将来、麻莉香が父親と同じような窮地に立たされた
としたら、彼女は迷わず父親と同じことをするのじゃないのかな。子供の頃、
正しい行動をした筈の父親について行かなかったことを、高校二年のあの出来事の
辺りまでずっと悔いていたのだから。
ひとつ屋根の下に一緒にいなくても、こういう家族の形もありなんじゃないかな、と
思えました。
子供が年を取っても一緒にいる共依存的な家族よりは、自立していていいのかも。
最後は気持ちよく読み終えられました。