ミステリ読書録

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神津慶次朗/「鬼に捧げる夜想曲」/東京創元社刊

第14回鮎川哲也賞受賞作、神津慶次朗さんの「鬼に捧げる夜想曲」。

昭和21年。乙文明は、戦友・神坂将吾の祝言の為に、九州大分の沖合に浮かぶ満月島へやって来た。将吾は若き網元の当主で、花嫁に選んだのは寺の住職三科光善の養女・優子であった。祝言を終えた二人は、午前1時から清めの儀式がある為、山頂の寺へ向かった。しかし、翌朝、和尚からの知らせで駆けつけた乙文が見たものは、惨殺された花嫁と花婿の姿であった。事件の謎を解く為に、名探偵藤枝孝之助が招かれる。孤島で起きた連続殺人事件の真相とは・・・。

鮎川さんというより、横溝正史へのオマージュ的な作品に近いです。孤島、旧家の因習、連続殺人と、雰囲気はまさに「獄門島」。しかし、いかんせん、文章がまだまだ完成されておらず、稚拙な印象は拭えません。それもそのはず、これを書いた当時は弱冠十九歳だとか。若いからこそ書けた作品ともいえるかもしれません。途中仰天トリックが開帳されるのですが、それをあっさり切り捨て、真相へ。でも、私はここまでの方が読んでいて意外性もあったし、面白味があった気がします。真相部分は犯人も謎解きも意外性がなく、ご都合主義的な展開に感じました。途中までは雰囲気も好きだし、面白く読んでいただけに、残念でしたね。良くも悪くも、若さが出た作品、といえるでしょうか。W受賞の岸田るり子さんの「密室の鎮魂歌」の方が、文章的には書き慣れてる感じはしました。ただ、こちらも所々ひっかかる所があったり、個々のキャラクターが好感が持てなかったりしたので、作品的には「鬼~」の方が好みかな。

それにしても、最近の賞ものは、若いという理由で選ぶものが多すぎますね。作品を読んで選考に悩んだ時に、最終的に年齢で判断するってどうなんだろうって思います。今回のこのミスなんて12歳の作品を選んでますからねぇ。確かに、若さは武器でもあるけど、力量が伴わないのにデビューしちゃうと後が辛いのでは、とも思うのですよね。ま、大抵、この歳でこの作品!!ってびっくりする場合がほとんどなのですが。文才のない私としては、作品を書き上げるだけでも尊敬に値することです。