ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦/「四畳半神話大系」/太田出版刊

森見登美彦さんの「四畳半神話大系」。

大学三回生の春までの二年間を思い返してみて、実益のあることなど何一つしていない
ことを断言しておこう。大学一年の春、ぴかぴかの一年生であった私が大学構内を
歩いていると、たくさんのビラを押し付けられた。中でも私の興味を惹かれたのは、
次の四つであった。映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外なビラ、
ソフトボールサークル「ほんわか」、そして秘密機関 < 福猫飯店 >である。そして
私が選んだものは・・・ああ、あの時違う道を選んでいれば・・・。


ひぃぃぃ~。またしても森見ワールド炸裂です。おおお、面白かったよ、紅子さん!!
今回は妄想っていうより空想の世界に近い。この作品は4つの物語から成っていますが、
基本となるキーワードはどれも共通していて、ラストもほぼ同じ結末。まぁ、言ってみれば
パラレルワールドみたいなもの。でも、それぞれに微妙に違った話になっていて、それぞれが
微妙にリンクしている所もある。なんとも、読んでいてへんてこりんな気持ちになりました。
正直、ほとんど同じ描写の部分もあるので、さすがに4回読むのは飽きてしまった(そういう
意味では一話目が一番面白く読んだかもしれない)。でもどの話もアホでくだらない、けれども
味のあるストーリーが盛り込まれているので、退屈することは全くありませんでした。よくも
まぁ、こんなことを思いつくもんだ・・・。森見さんの頭の中はどうなっているのだ、一体。

ちなみに、共通するキーワードをあげてみますと、「もちぐま(これは最も重要?)」
コロッセオ(???)」「海底二万海里」「カステラ」「猫ラーメン」「蛾」「香織さん」
などなど・・・。何なんだ、これはー!というものばかりでしょう?むふふ。
いやぁ、ほんとにオモチロイ世界です。

結局主人公はどのサークルを選んでも後悔して「ああ、あの時違うサークルを選んでいれば」
と思うことになる訳ですが、人間って、誰にでもそういう時ありますよね。「あの時ああして
いれば、今とは違う自分がいたかもしれない」と嘆くような場面が。この京大生の場合、終始
そんなことばっかり考えてるんですけどね。まぁ、彼の場合、どの道を選んでも結局小津という
人間に出会ってしまい、後悔するハメになる訳ですけど。小津のキャラがとにかく面白かった
です。もちろん、いろんなキャラで登場する樋口師匠(「夜は短し~」では樋口先輩と呼ばれて
いましたが)や羽貫さん、主人公が恋する明石さんも素晴らしいキャラクターたちですけどね。
小津に振り回される主人公が何とも滑稽で笑えます。でも何だかんだ悪態ついて文句言いつつ、
最後ではいつも許しちゃう、二人の関係が良かったです。ラストの「八十日間四畳半一周」の
オチは好き。形勢逆転、みたいな(笑)。

それにしても、「太陽の塔」のG(書きたくない)キューブで私を恐怖のどん底に陥れた森見さん
でしたが、今回は蛾の大群攻撃。私の嫌いなものをわざと選んでいるのじゃないかという猜疑心
にかられました・・・しかも今回はそれが4回登場する訳で。無数の蛾の鱗粉まみれになる
自分・・・うぎゃぁぁぁ~嫌だぁ^^;;;(昔から蝶の類いは苦手。特に蛾は・・・)
もう、そういう描写は勘弁して、森見さん・・・。

始めの方で書きましたが、好きなのは第一話の「四畳半恋ノ邪魔者」かな。明石さんとの
エピソードが一番微笑ましかったので(いや、どれもそれなりに微笑ましいけど)。
最もくだらない、と思ったのは、第二話の「四畳半自虐的代理代理戦争」の賀茂大橋の決闘
のオチ。なんなんだ、それはーっ!!と突っ込む人が大多数でしょう。

最後に特筆すべきことは、やはりもちぐまの愛らしさでしょう。数々の登場人物からふにふにと
愛され、癒しを与えるこのぬいぐるみ、私も読んでいて猛烈に欲しくなりました。現在の森見
人気で商品化されないかなぁと切に願う次第であります。