ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恒川光太郎/「雷の季節の終わりに」/角川書店刊

常川光太郎さんの「雷の季節の終わりに」。

雷の音を聴くと私は、薄暗い気持ちになる。ここではない遠い土地の薄暗い記憶を呼び
覚ますからだ。記憶の中のその町――穏には、春夏秋冬の他に、冬と春の間にもう一つ神の
季節があった。その短い季節は神季、もしくは雷季と呼ばれ、無数の雷を降らせるのだ。
雷の季節にはよく人が消えた。私の姉もその一人だった。姉が消えたと同時に、私は < 風
わいわい > という、穏では忌み嫌われている物の怪に憑かれてしまった。私は周囲にはその
ことを隠して生活していた。季節は巡り、また雷の季節に人が消えた。その秘密を知ってしま
った私は、穏を追われ、逃亡生活を余儀なくされた――。


おお、いいじゃないですか。二作めも。この独特の常川ワールド。書物にも地図にも載って
いない、ここではない世界、穏。たった二週間程度だけ存在するという雷の季節という設定も
秀逸。あまり日のささない、いつも湿ったような空気を感じる場所。なんだかいろんなモノが
いそうではないですか。そして実際いるんですけども^^;雷の季節には人が消える、という
一種都市伝説的な設定も雰囲気にぴたりとはまっている。ファンタジーとホラーと民俗学
見事に融合させていると思いました。
しかし、後半の展開にはまたまたびっくりさせられました。あ、あれ、突然現代?何故に
いきなりコンビニ?この方は既存の小説の展開を予想して読むと、見事に裏切られますね。
現実とその土地(穏)との境界がとても曖昧で、後半はついて行くのがちょっと大変でした。
ここまで現代色を出さなくても良かったのではないかなぁと思ったりもしますが。ただ、途中
からいきなり挟まれる‘茜’視点に戸惑っていたら、穏とああいう風に繋がって行くとは
・・・巧い。これはミステリとしてもなかなか良く出来た展開なのでは、と思いました。

ただ、あのラストはどうなんだろう・・・なんだか非常に突き放された感じもするんですが。
一体彼はこれからどうやって生きて行くのだろう。でも、このラストは「夜市」に通じる
ものがあるな、と思いました。やはり、恒川さんらしい、というべきなのかもしれません。

あと、長編だけに、正直弱冠後半にかけて物語が間延びした印象も受けました。というか、
トバ視点の章がなんとなくこの作品には不似合いな気がして違和感を覚えてしまった。トバという
キャラがどうにも悪役として役不足だったような気が。トバよりもよっぽどナギヒサの方が
悪くて狡猾という印象ですよ^^;そういえばナギヒサのその後も気になるけど。

でも、‘穏’という異質な世界の描写や、<風わいわい>という主人公に棲む物の怪の
存在など、とても魅力的な設定が溢れた作品でした。恒川ワールドにどっぷりはまった一冊
でした。今後も追いかけて行きますよ~^^