ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳広司/「百万のマルコ」/創元推理文庫刊

柳広司さんの「百万のマルコ」。

イタリア、ジェノバの囚人牢。戦争捕虜として捉われた囚人たちは牢から出られる算段も
持たず、退屈していた。そんな中、一人のみすぼらしいみなりをした小柄なヴェネツィア人が
新入りとしてやってきた。自らを < 百万のマルコ >と名乗るこの男は、囚人たちに「ここから
連れ出してやる」と嘯く。そしてマルコは、奇想天外な物語を語り始める。それは実に奇妙な、
そして不可解な謎を残した物語であった。囚人たちは物語の謎を解こうと、知恵を絞って
推理合戦を始めるのだが――マルコ・ポーロの『東方見聞録』のエピソードを盛り込んだ
傑作連作短編集。


この本を手にとるきっかけになったのは、お気に入り登録させて頂いている月野さんの「百万のベルコ」の記事。
大変楽しく面白い記事なので、未読の方はそちらを参照して下さい。私の分身・ベルコさんが
楽しい(アホな?)役で登場しております。みなさまのコメントも報復絶倒です。

うん、うん。みなさまが絶賛されるのもよくわかりました。面白かった!!読んでいて、私は
千夜一夜」を思い出しました。あれは確か退屈な王だか姫の為に語ってあげる物語だったのでは
なかったっけ(うろ覚え)。こちらは死ぬ程退屈している囚人たちの為に、新入り囚人のマルコが
自分が‘見聞きした’と主張する風変わりな物語を語って聞かせるお話。ただ、その話にはいつも
肝心な部分が抜けていて、突然オチに飛んでしまう。語られる方は何が何やら。そこでその‘語ら
れなかった部分’をみんなでわいわい推理するというのが毎回お決まりの形式。このみんなで
推理する場面がなんとも可笑しく微笑ましい。それを横でにやにや聞いているマルコのちょっと
底意地が悪そうなキャラがまたいい(笑)。はっきり云えばマルコの話は壮大な‘ホラ話’。
それは語られる囚人たちもわかっていて、それでもなぜかその物語に引き込まれてしまう。
この辺りの書き方が実に上手いですね。実際の「東方見聞録」で語られる物語とはかなり違って
いるようですが、元ネタの方もかなりマルコ・ポーロの推測が入っていたりするようですし、
まぁ、五十歩百歩でしょう(え、違う?)。マルコの語る物語は確かにホラ話ですが、ちゃんと
最後には教訓めいたものが入っている場合が多い。そしてなんだか読んだ後に清清しい気持ちに
なれる。捉われた囚人たちが「青い空」を夢見て明るい気持ちになって行けるように。そして
ラストの大団円。これもまた「夢物語」のような終わり方ですが、明るく愉快な囚人たちが
こういう結末を迎えられたのは素直に嬉しい。楽しい仲間たちがばらばらになってしまうのは
少し寂しかったけれど。

マルコの語る‘謎’の部分は囚人たち同様ほとんどわからなかったです^^;唯一わかったのは
「一番遠くの景色」のみ。まぁ、これはわかる人がほとんどだろうな。荒唐無稽な謎もマルコ
の謎解きを聞いて「なる程ぉぉ~~」と素直に感心してしまった。なぞなぞが好きな人は
こういうの好きだと思うな~。

どの話も短いけれど、とても楽しい作品でした。気軽に手軽に読めるユーモアミステリです。
オススメです^^




~「蛇足」という名の後日談~

――ねぇねぇ月野さん。結局「百万のベルコ」の百万って何だったのよ?みんながいろいろ
推理してたけど(百万年、百万馬力、百万石、百万円、百万光年、百万里、百万人、
百万両、百万杯、百万粒、百万ボルト、百万本、百万キロ、百万食・・・)。

――えっ、答えは本文に出てたですって!?ちゃんと読んで確認しろですって?
わかったわよ、読んでないのばれちゃったわね。読むわよ。


――・・・・「百万=ホラ」つまり「百万のマルコ」=「ホラふきマルコ」


「痛っ!なんで殴るの、邊瑠子さ~ん・・・」


ちゃん、ちゃん。    


おそまつでした。