ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

佐々木丸美/「崖の館」/創元推理文庫刊

佐々木丸美さんの「崖の館」。

百人浜の哀れな伝説が今なお残る断崖の地の白い館が建っている。そこに住む資産家の
おばの元へ、五人のいとこたちが冬休みを利用していつものように過ごしにやって来た。
この場所で、おばは二年前に結婚式間近だった愛娘の千波を亡くした。彼らが着いた当日
から、不審な事件が相次ぐ。いとこたちの中でも理屈屋の哲文は、これが千波の死と関連
があるのではないかと推測する。家族同然で過ごして来た親しい人の中に犯人が?雪に
閉ざされた館の中で、それぞれが疑心暗鬼に捉われてゆく中、推理を交し犯人を探り合う。
そしてついに狡猾な犯人による犠牲者が――。


まさしく‘本格推理’の名を冠するに相応しいような作品。全く何の予備知識もないまま、
なんとなく自分好みそうだと思い、手に取った本書。解説は若竹さんだし、創元推理文庫だし、
まぁ損はしないだろうという目算で。

内容はもう、本当にオーソドックスな館もの。電話線が切られ、雪で周囲との連絡が途絶えた
館の中で連続して起きる事件。絵画の消失、密室からの人間失踪、転落事故・・・関係者は
すべて血縁関係者。仲良く過ごして来たはずなのに、誰かが裏切っている――とまぁ、こう
あらすじを書いただけでも「どこぞで出て来た設定?」と思える位ベタ。ただ、この作品が
書かれたのはもう30年位前になるそう。新本格作品なんかよりもずっとずっと前に書かれた
作品だということ。そう考えると完成度の高さを感じます。格調の高い文章がまた実に良い。
はっきり言えば、登場人物同士が交わす会話は高尚過ぎてちょっとついて行けない部分も
あります。現代の若者たちであれば、この会話はあり得ないでしょうね。頭の良い人
たちの間の会話はこうなのかなぁとも思いますが。ただ、その中で主人公の涼子は高校生
ということもあり、感情の起伏が激しい分まだまだ幼さが全面に出ていて子供っぽい。
正直彼女の性格はあまり感情移入できる類いのものではなく、ちょっと読んでいていらいら
する所もありました。
一番印象に残ったのは由莉が自分の心情を吐露するくだり。わがままで自分勝手に生きて来た
と思われていた彼女が、実はいろんなことに耐えて一人諦観して生きて来たことを語る様は
静かな迫力があって、聞き手である涼子と同じように衝撃を受けました。佐々木さんの静謐
でいて圧倒されるような叙情的筆致はかなり好みです。登場人物たちの会話や思想は人に
よっては古臭いと感じる方もいるかもしれませんが、私はこういう世界観こそが一番本格
ものに合うと思っているので、全く違和感なく入っていけました。

ただ、肝心のミステリ部分に関しては少し甘いかなぁという気もします。特に第二の殺人に
関しては、「それで人が死ぬのか?」という根本的な疑問が・・・。犯人もだいたい当たりを
つけられてしまった^^;その辺りはもう一工夫欲しかったかも。でも全体に漂う‘本格’の
意識は好きな人にはたまらないもの。どこを取ってもミステリを意識して書いてある。
私のような本格第一人間にはこういうのが嬉しいのです。

この作家さんの作品は長らく絶版になっていたらしいですが、創元推理から待望の復刊の
運びとなったようです。こういう埋もれている作家さんの作品が日の目を見るのは嬉しい
ことですね。この作品は < 館 > シリーズの第一作なんだそうです。全三作あるそう。
図書館にあるかなぁ。