ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

福田栄一/「メメントモリ」/徳間書店刊

福田栄一さんの「メメントモリ」。

勤めていた職場が突然つぶれ、母の紹介で無理矢理場末のスナックでバーテンとして働くことに
なった山県。以前の店では実力派のバーテンだった山県は、やる気のないママの絢子の経営方針や、
カクテルを飲みに来る客もいない店に嫌気が差していたが、突如家出少女を預かる羽目になり――。


ミステリフロンティアや、講談社ノベルスで話題になっている(らしい)福田栄一さん。どちらも
借りれそうにないので、とりあえず軽そうな作品が置いてあったので手に取ってみました。ただ、
これを借りた直後に講談社ノベルスの「監禁」を借りることが出来たので、まさに福田作品の
前哨戦(笑)という感じになりました。

本書。とにかく読みやすいし、軽めのストーリーなのでさくさく進みました。複雑な構成などは
一切なく、ただただエンターテイメント的な娯楽小説。いや、普通に面白かったです。ただ、
物語に深みとか意外な展開なんかがある訳ではありません。漫画原作のような感じと言ったら
わかりやすいかもしれない。ラノベほど文章は軽くないのですが、内容的にはそれ程大差はない
かも。暇つぶしに読むには最適。深く考えなくてもいいし、それなりに楽しく読めるので。
ただ、ストーリーがあまりにも安易な展開に進むので、読み応えという点では少し物足りない
感じはありました。

バーテンの山県君のキャラはとても良かった。こんな善人、今時探すの難しいだろうって
位人が良すぎる気がしますが・・・^^;彼がカクテルを作るシーンはとてもかっこよかった。
次から次へといろんな事件に巻き込まれるのに、ちっとも悲壮にならずにきちんとその問題と
向き合う彼の姿勢は好感が持てました。普通こうはできないですよ。しかもそのほとんどが
他人の問題ですからね^^;店を辞めた菫、家出少女の亜須美、以前から山県に付きまとう
芸能人の翔子。三人の女の子にまつわる事件の結末については、あまりにも安易に解決しすぎて
拍子抜けという感じもありましたが・・・。女性のキャラ造詣についてはちょっとイマイチ
でしたね。山県とは対照的に、どのキャラにも好感が持てなかった。
ママの絢子のキャラももうひとつ。悪人なのか、善人なのか、どっちかにして欲しかった。
それぞれのキャラがもうちょっと書き込めていたら、もっといい作品になったかもしれない。

でも、山県君の作るカクテルはお酒苦手な私もちょっと飲んでみたくなりました。お酒好き
ならばきっと楽しめるのではないでしょうか。鮮やかな手つきでカクテルを作ってくれて、
優しく愚痴を聞いてくれるなんて、こんな素敵なバーテンがいたら、そりゃーその店に通う
でしょう(苦笑)。

ちなみに、タイトルの「メメントモリ」、ラテン語で「死を思う」という意味だそうですが、
この作品に関しては深い意味はほとんどありません。単に山県が就職したスナックの名前が
メメントモリ」だっただけという^^;映画とか本の「メメントモリ」とは一切関係
ありませんので、あしからず。