ミステリ読書録

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鯨統一郎/「ルビアンの秘密」/理論社刊

鯨統一郎さんの「ルビアンの秘密」。

17歳の北元冷は、8年前に自分と母親を捨てて家を出た植物学者の父親のことを憎んでいた。
母親との仲にケリをつけようと決心した冷は、離婚届を突きつけに父親のマンションにやって
来た。しかし、部屋の中には胸に包丁をつきたてられて倒れた父親の姿が。父親は、慌てて駆け
寄った冷に抱かれながら息を引き取った。「ルビアン・・・」という謎の言葉を残して――。
犯人は誰なのか。そして、「ルビアン」という言葉の意味は――理論社ミステリYA!シリーズ。


鯨さんがこんなまともな青春ミステリを書くとは!ちょっといつもとの作風の違いに戸惑って
しまいました^^;ヤングアダルト向けということで、読みやすいけどやや展開が安易で
盛り上がりに欠けるかなという感じは否めなかったかな。全ての解決が最後に地の文で
一気に説明されちゃったのも少し興が殺がれました。補足程度なら良いのだけど、ほぼ
全てのからくりがここで一気に説明されているので。探偵役がいないので仕方ないのかもしれ
ませんが、400ページもある作品のラストとしてはちょっと物足りなかった。
ただ、「ルビアン」の意味に込められた父親のメッセージにはジーンと来ました。生きて
いる内に直接伝えることが出来なかったことが切ない。何年別れていようと、親はいつでも
子どものことを一番に考えているのですね。「ルビアン」という単語自体の謎は、いかにも
鯨さんらしい言葉遊びだな、と思いましたが、こじつけに近くやや苦笑い^^;
でも「ルビアン」という言葉の響きは綺麗だと思う。こんな名前の植物が本当にありそうです。
少なくとも、犬の○○の名前よりは^^;

道端に生えている様々な草花の名前が出てくるのは読んでいて楽しかったです。野草研究会
なんて、なかなか楽しそう。普段雑草としか認識していない草花でもよく見ると可憐な花を
咲かせるものがたくさんあるのですよね。そんな風に草花を愛でる心を持った冷は、名前に
反してとても心の優しい子なんだと思います。そういえば、冷の名前の由来は出て来なかった
なぁ。気になったのに。父親がどういう思いでこの名をつけたのか明かして欲しかったです。

気になったといえば、ポーリン製薬社長の児玉の兄のことも。結局兄は今どこでどうして
いるのでしょう。獄中にいるのかな?なんだか名前だけエキセントリックに取り上げられて
そのまま放り出されてしまっていたので少し消化不良でした。兄に心酔してるという割に、
児玉社長が兄について語るところも出て来ないですし。なんだかなーという感じでした。

突っ込み所はいくつもあるんですが(!)、鯨さんらしくない(笑)爽やかなラストで
読後感も良かったです。れっきとした青春ミステリでした。
装丁も内容と合っていて良い感じ^^
もしや、脱バカミス!?いやいや、それはそれで寂しいです。またくだらないのも
お願いします(笑)。