ミステリ読書録

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はやみねかおる/「そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート」/講談社文庫刊

はやみねかおるさんの「そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート」。

四月一日、よく晴れた日に、わたしたちの隣の洋館に変てこな隣人が引っ越して来た。黒い背広
を着て、黒いサングラスをした背の高い男の人。表札を見ると下手くそな毛筆で「名探偵 夢水
清志郎
と書いてあった。ふつう、表札に自分の職業、それも名探偵なんて書く?わたしたちは
さっそくいつも通りの手でその男が本当に名探偵かどうか調べることにした。結果、わたしたちは
あるきっかけから彼がほんとうの名探偵だと知ることになる。そして、夏休み、四ヶ月間ですっかり
仲良くなったわたしたちは連れ立って遊園地に遊びに行くことに。そこで、世間を賑わすことになる
連続児童消失事件と出会うことも知らずに――。


いやいや、楽しい作品でした。はやみねさんらしさ満載のジュヴナイル。もとは青い鳥文庫から
出た作品が文庫化されたようです。うん、こういう作品は小学生たちにどんどん読んで欲しい。
読み始めの‘わたしたち’の正体からしてやられた~!って感じでした。いくつかひっかかりを
感じて読んではいたのですが、なるほど、そうだったのかー!複数形を完全に違う意味に
取ってました^^;

夢水氏のキャラクターがとても良いです。普段は何もせず家でごろごろ。食い意地だけは張って
いて、ご飯を分けてくれるお隣のお母さんだけには頭が上がらない。過去の事件のことはすぐ
忘れちゃうし、何を考えているのかわからない。だけど、本当に大事なことだけは絶対忘れ
ないし、「みんなが幸せになるように事件を解決する」ことをモットーとしていて、誰よりも
温かい目線を持っているとても素敵な名探偵。子供よりも子供っぽいところもあるけど(殺人
ジェットコースターにはしゃいで何度も乗るところとか)、大人として忘れちゃいけない何か
をずっと持ち続けられる誰よりも大人な人間なんだと思う。はやみねさんの温かい目線を随所
で感じました。
謎解きもなかなかしっかりしていて、ジュヴナイルとしてはかなりの完成度。児童消失の犯人
である伯爵の正体も意図も途中で気付いてしまったけど、それで「なーんだ」なんて思わない。
その先にある本当の謎解きにはしっかり感心させられましたから。さすがだな、はやみねさん。

教授(夢水氏)と‘わたしたち’との会話が絶妙で、それを読んでるだけでもとても楽しい。
でも、楽しいだけじゃない。その中にとても優しく残る言葉がある。例えば、


「今の子どもと昔の子どもと、どっちが幸せだと思う?」と聞く‘わたし’に対して、

「どっちも幸せだよ。子どもは、いつの時代だって幸せなんだ。
また、幸せでなくちゃいけないんだ」



この会話だけでも、教授がどれだけ優しさに溢れた人物なのかがわかります。ああ、はやみね
さんらしい台詞だな、と嬉しくなりました。

噂に違わぬ素敵なミステリでした。このシリーズどんどん追いかけたいけど、一体次はどの
作品になるんだろ?青い鳥文庫で探さなきゃだめかな^^;