ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柴田よしき/「ワーキングガール・ウォーズ」/新潮社刊

柴田よしきさんの「ワーキングガール・ウォーズ」。

37歳・未婚・入社14年と10ヶ月。墨田翔子は有名な総合音楽企業の企画係長。恋人も
人望もない。それが何?ひとりでランチを食べるのだって慣れた。でも、少しだけ人間関係
にはうんざり。そんな時、都内の某デパートのメーリングリストで知り合った女性とメル友に。
彼女はオーストラリアのケアンズで旅行代理店に勤めていた。翔子は彼女の勧めでケアンズ
ペリカンを見に行くことに。そこでとんでもない事件を経験した末、かけがえのない友情を
手に入れた翔子は、オフィスに渦巻く悪意や嫉妬に立ち向かう――。働く女性にエールを
送る、女性の本音を綴った快作。


面白かった!内容は以前に読んだ奥田英朗さんの「ガール」と似てますが、女性が書かれて
いるだけあり、あちらよりも女性心理はよりリアルに感じました。特に、翔子と愛美の
微妙な嫉妬や妬みを挟んだ友情関係。私がどちらの立場でも、やっぱり相手の立場を羨ましく
感じるだろうし、多かれ少なかれ嫉妬心は芽生えてしまうだろうと思う。たとえそれが
かけがえのない友人でも。相手が自分にないものを持っていたらそれを妬む気持ちが
生まれるだろうし、そんな相手が自分よりも劣っている部分があったらそれに優越感を
覚えるのだろうし。きっと女性ならば誰でもが身に覚えのあるそうした内面心理を実に
巧く描いてます。例えば愛美は、翔子が有名企業の敏腕係長で、高収入を得てリストラの
心配もない安定した職業を得ていることに嫉妬する。その反面、彼女よりも自分が8歳
年下であることに優越感を覚え、彼女がまだ独身でいることに対し、自分はそうならないぞ
と決意したりする。うん、わかるなぁ、こういう気持ち。

翔子のオフィスでの小さな悪意の事件も実にリアル。1話のマニキュアの事件を最後の最後まで
ひっぱる辺りもなかなか巧いな、と思いました。先であげた「ガール」の記事でも書いたように、
私はOLとして働いたことがないので推測でしかないのだけど、きっとどこの会社でも大なり
小なりこうした小さい悪意は蔓延していて、みんなそうしたものと必死に闘いながら働いている
のだと思う。そうした、働く女性に元気を与えてくれるような作品でした。
とにかく翔子さんが素敵!ペリカンに会うんだ!ってはりきっちゃうとこも、ペリカンに石を
ぶつけられて逆上してつかみ合いのケンカしちゃうとこもなんだか可愛いと思えてしまう。
37歳だけど、翔子さんは十分‘女の子’(奥田さん流に言えば‘ガール’)だ。
最終話の宇田との対決が最高!翔子さんのかっこよさに惚れます。彼女の啖呵にスカッと
しました。こういうセクハラオヤジには最高の薬になったのではないかしら。

翔子さんが好きになる八幡がまたいい男ではないか。彼はちゃんと翔子さん自身を見てくれている。
こういう存在が一人いるのって、やっぱりすごく心強いのではないかなぁ。それまでは完全に
孤軍奮闘という感じだったから。何より、彼が新本格のミステリが好きで、とりわけ一番好きなのが
笠井潔ってとこが素晴らしい(と思うのは私ぐらいか)。彼が抱える苦悩はなかなか重いもの
があるけど、翔子さんは十分彼の複雑な気持ちを理解してあげていたと思う。二人のラストも
未来を感じさせる終わり方でよかったです。

愛美のキャラも良かったですね。彼女のように、自分の今の仕事に疑問を感じて「これで
いいのかな」と悩む女性は多いと思う。私だってその一人だし。それでも、最後は自分で
決めた道に向かって前向きになる彼女の姿が清清しい。日本に帰って来たら、しょっ中
翔子と飲み明かすのだろうな(笑)。

タイトル通り、働く女性がいろんなことと闘う物語。翔子さんや愛美が頑張ってるから、
自分も頑張らねば!という気持ちになりました。全てのワーキングガールに読んで欲しい、
痛快で爽快な一冊でした。