ミステリ読書録

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福田栄一/「A HAPPY LUCKY MAN」/光文社刊

福田栄一さんの「A HAPPY LUCKY MAN」。

県人の学生寮で寮長をしている大学生の柳瀬幸也。ある日管理人が急病で入院することになり、
雑事を全て任されることに。留年必死のレポートを抱えているのに、寮の学生たちは次々と柳瀬に
面倒事を持ち込んで来る。恋愛沙汰、隣人とのトラブル、ライバル寮とのケンカ騒ぎ、バイト先の
廃業危機、果ては痴漢の冤罪まで――お人よしの大学生・柳瀬が巻き込まれた一週間の騒動を
描いた青春小説。


面白かったのだけど、とにかく読んでいて疲れました。主人公柳瀬の元にはめまぐるしく次から
次へと騒動が持ち込まれ、柳瀬がその一つ一つにいちいち対応してあげるものだから、彼の
お人よし加減と、騒動を持ち込んで来る友人・知人たちの無責任な態度にいちいち怒りを覚えました。
ついつい柳瀬の代わりに「そんなのお前が自分でやれよ!!」と怒鳴りたくなりました^^;
テンポよく進むので読みやすいは読みやすいのですが、それぞれの騒動が割とあっさりと単純に
解決して行くのでやや拍子抜けする部分も。やっぱり、この辺りの淡々と物語が進んで行くところは
この作者の特徴だったんだなぁ。唯一、幸枝が監禁されてしまうくだりだけは最後緊迫感があって
盛り上がりがありましたけど。

まぁ、とにかくこの作品で一つ言えるのは柳瀬が究極のお人好しだということ。普通、ここまで
畳み掛けるようにみんなが面倒を起こしたら、どっかで逃げると思います。しかし、彼は死ぬ気
でやらなければ終わらないレポートを抱え、睡眠不足で体調がどん底に悪くても、一人一人の
面倒事に生真面目に取り組み解決して行く。こんなお人好しはなかなかいないですよ。どの騒動も、
柳瀬が解決してあげる筋合いのものじゃないものがほとんどなのに。寮関係の問題はともかく、
連絡が取れない友人の恋人の様子を探るとか、バイト先に客が来ない理由を探るだとか、そんなの
当人たちがやればいいじゃん!って思うんだけど、彼はきちんと彼らの代わりになって解決して
あげる。偉すぎる・・・。ついつい、騒動の度に柳瀬のレポートを心配してしまった。人の為に
駆けずりまわって、自分は留年決定じゃ、あんまり可哀想すぎるじゃないか。
でも、そういう柳瀬のキャラがこの作品の全てです。ついつい彼を応援してあげたくなりました。

だから、ちゃんと最後の最後には報われて良かった、ほんとに。彼がここまで頑張ったから、
神様がご褒美をくれたのだろうと、ここに来てやっと溜飲が下がりました。この終わり方は
とても好きですね。
新たに抱えるトラブルの顛末が是非とも知りたいところです。きっと、彼はトラブルを背負い込む
体質なのだろうなぁ。頑張れ、柳瀬。

読み終わって一言。


柳瀬君、お疲れ様。


多分、読了した誰もが彼にこう言いたくなるに違いない。