ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

田中芳樹/「月蝕島の魔物」/理論社刊

田中芳樹さんの「月蝕島の魔物」。

1857年のイギリス。スコットランド地方の沖、ヘブリジーズ諸島の一つ月蝕島沖で氷山
に閉じ込められた帆船が発見され話題になっていた。クリミア戦争から生還したニーダムは、
姪のメープルと供に会員制貸本屋での就職が決まった。精力的に働く二人に、ある日社長から
作家のアンデルセンディケンズの世話をするよう言い渡される。マイペースな二人の世話に
手を焼くニーダムとメープルだったが、更にディケンズが話題になっている月蝕島に行くと
言い出して事態はとんでもない方向へ――ヴィクトリア朝ゴシックホラー。ミステリYA!
シリーズ。


はい。ということで田中芳樹さんのミステリYA!です。田中さんはミステリランドの
「ラインの虜囚」以来久しぶり。昔は「創竜伝」とか「アルスラーン戦記」とか大好き
で良く読んでたんですけれどね(「銀英伝」はスルーしてましたが^^;)。

いや~~、これはねぇ。はっきり云って、途中で挫折しかけました。だって、読んでも
読んでもちっとも物語が進まないんだもの。月蝕島で謎の氷山が発見される第一章
なんかは非常にワクワクしたのだけれど、肝心の月蝕島に行くまでがとにかく長い、長い。
途中ではさまれる歴史背景がまた教科書読んでるみたいでなかなか頭に入ってこないし。
多分歴史好きな人とかはこの辺の丁寧な時代背景描写が楽しめるのかもしれないけど、
その手の作品に苦手意識のある私には蛇足にしか感じられなかった。月蝕島はどうした!と
何度ツッコミを入れたくなったことか・・・。もっと月蝕島をメインにした冒険譚だったら
多分もう少し入り込めたと思うのですが、余計なエピソードが多すぎてかなり退屈に感じて
しまった。悪役として出て来るゴードンや息子のクリストルもあまりにも悪役キャラとして
類型的すぎる気がしてやや興ざめ。まぁ、YA世代向けならこれくらいわかりやすい方がいいの
かもしれないけど・・・。その分ラルフが少し複雑なキャラだから丁度いいのかな。
彼がどうなったのかは非常に気になりますが。

メインキャラのニーダムやメープルや文豪二人のキャラ造詣はとてもいい。
ニーダムは紳士で格好いいし、メープルは気が強いけれどきびきびと動き回り、働く
意欲に溢れている才気溢れる女性。クリストルとやり合う負けん気の強いところなんかは
なかなか痛快。二人が働く会員制の貸本屋というのもとても好きな設定です。多分この時代に
生きていたら絶対会員になってるな(笑)。女性に読書の習慣をつけようと奔走するメープル
が素敵です。実際こういう人物がいたから女性の文盲率も上がったに違いないと思えました。
文豪二人に至っては、とても愛嬌があって愛すべき人物という感じ。才能のある人間というのは
変人が多いというけれど、二人ともその例に漏れず。特にアンデルセンの奇矯なキャラは面白い。
実際のアンデルセンもこんな風に奇行が多かったのかな~?

それにしても、月蝕島の魔物の正体には唖然・・・ここだけいきなりファンタジー通り越して
SFになっちゃうのはどうにも・・・。この部分だけが浮き上がってる印象を受けました。
ラストでまた歴史的事実に則った文豪二人のその後が語られたりして現実世界に戻るので、
余計にその魔物のくだりだけが唐突に感じてしまった気がする。それまでにもっとファンタジー
要素が入っていればそれ程変だとも思わないのかもしれないけれど、割と歴史的事実を考慮
して書かれている作品なだけにこの展開はどうなんだろうと思いました。

これは三部作の一作目に当たるらしく、第二部「髑髏城の花嫁」、第三部「水晶宮の死神」
と続くようです。
うーむ。続き読む気になるかなぁ(←オイ!)。

あう~~。結構酷評になってしまった・・・。
ロンさんごめんなさい~~(責任重大だったのに~^^;;)。
私は基本的に海外が舞台だったり、歴史が絡んだりする作品が苦手なので・・・。
他の方の書評を見ると、結構面白いという意見の方が多いみたいなので、あまり私の意見は
あてにせずに読んでみて頂きたいです。多分好きな人はすごく好きな作品だと思いますので~^^;
(必死にフォローしてみたり^^;)