ミステリ読書録

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東川篤哉/「もう誘拐なんてしない」/文藝春秋刊

東川篤哉さんの「もう誘拐なんてしない」。

アルバイトを探していた山口県下関市の大学生・樽井翔太郎は夏休みの間だけ大学の先輩から
たこ焼きの軽トラ屋台を譲り受けることに。たこ焼き屋台のバイト中に、ひょんなことから
ヤクザの花園組組長の娘と知り合い、義妹の手術費用を手に入れたいという彼女を狂言誘拐する
羽目になる。軽トラックを貸してくれた先輩に相談し、彼が考えた計画に従って無事身代金
三千万円を手に入れた翔太郎たちだったが、翌日手術費用の五百万だけを残し先輩は姿を
消してしまう。しかも、身代金の受け渡しに使った先輩の父親の形見の船・梵天丸の中には
花園組幹部の死体が血まみれで残されていた――脱力系ユーモア誘拐ミステリ。


久々に東川さんの新刊が出ました。タイトルや装丁を見て「らしくない・・・」とついつい
思ってしまったのですが、内容はいかにも氏らしい脱力系キャラ満載。特に花園組のヤクザ
たちはみんな読んでいてほんとに脱力したくなるような迫力のなさ。組長を尊敬しない
組員たちがいる組って、かなり問題あるんじゃないか^^;実は今回はキャラ造詣やギャグ
がいつもより中途半端な感じがして、少し引いて読んでいました。こりゃ、ダメかも・・・
とさえ思ってしまったのですが、さすが、‘ギリギリのセンで本格’の仕掛けはきちんと
施されてました。誘拐の受け渡しの場面なんて、完全に騙されましたからね。アリバイトリック
自体は使い古されたものとはいえ、ゆるい作風に邪魔されてか、全くそこにトリックがある
なんて思わなかった。アホな誘拐ものかと思って完全に油断してました。海流の流れを示した
掲示板もちゃんと意味があったし。相変わらずやることがニクイ。やっぱり東川さんは
あなどれない。アホな作風やすべり気味のギャグ(笑)に惑わされているとまんまと足元を
掬われてしまう。

読了してみると、義妹はどうなったんだとか、ニセ札の存在はとか、翔太郎を追いかけて
いた筈の警察がその後全く出て来ないのはおかしいとか、気になる部分はいくつも
残っているのですが、まぁ、その辺りはあまり深く考えちゃいけないのかな、と。
だって東川作品ですからね(←!?)。

一番好きなキャラは絵梨香の姉皐月。美人でスタイルの抜群なのに、男まさりな言葉遣い
でかっこいい。組長の父親よりも組員からの信望が篤いって一体・・・^^;その割に妙に
抜けてるとこもあったりしてお茶目なとこもあるし。終盤では謎解きで頭の良さも覗かせて
くれましたしね(出たとこ勝負みたいな謎解きでしたが^^;)。翔太郎の情けないけど
なんだかんだで人の好いキャラも好きなんですが、ちょっと他のキャラに比べると弱いかな
という感じは受けました。ラストは若布男ですしね・・・まさか若布刈神社がこのラストへの
布石だったとは・・・。途中、なんでいきなり若布刈神社なんて出て来るのかなぁとは思って
いたんですよね。烏賊川市があるから、海繋がりなのかな、とかね。やられましたね(笑)。

まぁ、でも作品全体に流れるゆるーい空気は相変わらずなので、この雰囲気がダメな人は
受け付けないだろうな^^;
私はそんなとこが大好きなんですけどね。