ミステリ読書録

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佐藤多佳子/「一瞬の風になれ 3(ドン)」/講談社刊

佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ 3(ドン)」。

三年生になった新二と連。有力な一年生も入って来て、春野台高校陸上部はますます強く
なる予感がする。しかし、実力はあるが癖のある問題児が一人混じっていた。部長の新二は
部内の人間関係にも頭を悩ませることに。彼が加わった4継はもっと速くなる――ただ、走る。
走る。走る。一本、一本、全力で――本屋大賞受賞作、感動の完結編。


感無量。読み終えた後、新二たちと供に私もゴールした気分になりました。2巻の記事から
こんなに早く3巻が読めるとは思わなかったです。やはり蔵書数16冊は伊達じゃなかった。
実は2巻を読み終えてから、ストーカーの如くに毎日図書館HPで3巻の予約状況
をチェックしては「全然予約数動かない~」と嘆いていたのですが、どうやら毎日新たに予約が
入っていたからのようで、私の順番はどんどん前に来ていた模様。蛇の生殺し状態から早く
抜け出せて良かった良かった^^;

3巻は前2巻の集大成のごとくに、ほとんどが競技のシーン。新二が一戦ごとに自分の走りを
掴んで、タイムを上げて行く様が自分のことのように嬉しかったです。自分の走りを忘れて
マイルで失敗してしまった時は新二と同じようにショックだったし。完全に同化してました。
これはやっぱり佐藤さんの描写力なんだと思う。視点が新二だからというだけではなく、
彼の一言一言がリアルに胸に響く。彼の感動が、反省が、怒りが、喜びが。レースの臨場感だけ
ではなく、登場人物の心の動きまでもが素晴らしい躍動感を持って描写されるからこそ、この
作品がこれ程支持されているのだと思う。ラストのインターハイ予選の100メートルと4継の
シーンは圧巻。心臓の鼓動が聞こえてくるような気がしました。予定調和と言われようが、この
結末で本当に良かった。それまでのハードなトレーニングや人間関係の不調を経験して、
それを乗り越えてようやく掴んだもの。それは十代の新二たちにとって、かけがえなのない、
尊いもの。ただ、走ることへの情熱。新二が連に向けた「ずっとかけっこしよう」って言葉
が大好き。陸上をかけっことは何事だと言われそうですが、彼らの間ではあくまでかけっこ
でいいんです。それで通じる。それをずっと二人で追求して行って欲しいな、と思いました。

新二が一巻の頃とは比べ物にならないくらいしっかりして、部全体を見れるようになったのも
嬉しかったですね。もともと真面目で面倒見が良い子だったので、彼を部長に指名したみっちゃん
の人選は素晴らしい。連が好き嫌いなくご飯を食べれるようになったのだって、新二の母親と
同じように良かったと思えた。新二のお母さんのこと、実は最初は兄の方にばかり目が行ってる
感じがしてあまり好きになれなかったのだけど、全く私の思い違いでした。「息子が二人いて
良かった」と誇らしげに新二に語るお母さんはとても素敵な人でした。


好きな言葉や台詞はたくさんあったけど、一番胸に響いた新二の言葉を書いておきます。

「人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。一人
だけではできない。だけど、自分が走るその時は、まったく一人きりだ。誰も助けて
くれない。助けられない。誰も替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと
見つめないといけない。俺は、俺をもっと見つめないといけない。そこは、言葉のない
世界なんだ――たぶん。」


この作品全体を凝縮した言葉だと思いました。こういうことをさらりと素直に
思えてしまう新二が大好きです。


一つ不満を言えば、谷口さんとのことをもうちょっと掘り下げて書いて欲しかった。レース
が終わった後で少しはそういうエピソードが出て来るのかな~と期待していたので・・・。
ラストシーンをあそこで終えたことに異議はないのですが、せめてその前にでもちょこっとでも
その辺りのエピソードを入れて欲しかったですね。恋愛部分は思った程3巻では出てこなかった
ので^^;そこがあったらもう言うことなしのパーフェクトだったんですが。


そうはいっても、三冊通して青少年たちの青春をたっぷり堪能させて頂きました。
読み始めたらどの作品もほぼ一気読み。読み終えるのが勿体ない、新二たちと
もっと一緒に走っていたい、と思いました。
是非たくさんの人に読まれて欲しい青春小説の傑作です
(まぁ、私がここで書かなくても周知の事実ですが^^;)。
さすが、本屋大賞はダテじゃないな~。