ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「Re-born はじまりの一歩」/実業之日本社刊

「Re-born はじまりの一歩」。

悩み、迷い、挫折。試行錯誤しながらも選び取った自らの道。「もう一度、ここから始めよう――」。
7人の作家が描く新たな出会いと出発。「再スタート」をテーマにしたアンソロジー

執筆作家:宮下奈都、福田栄一平山瑞穂中島京子豊島ミホ瀬尾まいこ、伊坂光太郎。


「再出発」をテーマにしたアンソロジー。未読作家も入ってますが、伊坂さん、瀬尾さん
あたりの名前に惹かれて予約してみました(笑)。どれも読みやすくそれなりに楽しめた
のですが、それほど胸に響く作品というのはなかったかな。新たな一歩を踏み出すという
前向きなラストが多いので読後感は良いものが多かったですが。



以下各作品の短評。


宮下奈都「よろこびの歌」
初めて読む作家さん。何か「惜しい」という感じの一作。あと一歩で感動できるのに、その
一歩手前で踏みとどまった、みたいな。これはこのページ数じゃなくて、もうちょっと中編
位で書いた方が良かったのではないかなぁ。音大受験に失敗した女の子が普通科高校に行って
合唱祭の指揮者に指名されるくだりまでは良かったのに、その後あっさり合唱祭を通り越して
ラソン大会に行っちゃうとこが納得できなかった。ラストでクラスメートが合唱祭の時の歌を
歌い始める場面も唐突すぎて感動よりも腑に落ちないものを感じました。生徒たちがその歌を
歌いたくなった過程をもう少し書いて欲しかった。


福田栄一「あの日の二十メートル」
これは収録作中一番好きでした。福田さんらしい優しさを感じる良作。20メートル泳げる
ようになりたいという老人と、コーチを引き受けた大学生の青年とのやりとりがとても良かった。
ラストはこうなるだろうな、と予想はついたのですが、やはりとても切ない気持ちになりました。
だから老人と子供が出てくる作品には弱いんだよぅ^^;;


瀬尾まいこゴーストライター
これはこの間出た新刊の「戸村飯店青春100連発」の原型となっている短編だそうです。
という訳で、まだこれだけだと何が何やらって感じでした。仲の悪い兄弟でも、いなくなると
やっぱり寂しいものですよねぇ。お兄ちゃんの性格がいまひとつ掴めないままでしたが、本編
の方ではどうなんでしょう。予約中ですが、一向に回って来る気配がありません・・・。


中島京子「コワリョーフの鼻」
中島さんも初読作家。中盤にさしかかるまで、一体何が書きたいのか全くわからなかった。
「鼻」についての描写が読んでいてキモチ悪いし。あんまり好きな作品ではなかったのですが、
ラストは夫婦の絆が感じられて良かったです。でも、旦那の台詞を頭に思い描いてみると、
すごくシュール。普通、そこで100年の恋も冷めるような気もするけどね・・・。


平山瑞穂「会ったことがない女」
これは次点かな。結構好きでした。そして、また老人が出てくるし(笑)。これもなかなかに
シュールな話で、ラストの展開、特に少女の言動には面食らいましたが、二人の『再生』の為には
必要不可欠だったのだろうと無理矢理納得させました(でも想像はしたくない^^;)。老人が
主人公だと必ずそこには『死』がついて回るから、どうしたってこういう結末になっちゃうんで
しょうけど、やっぱり切ないですね。平山さんは以前から読んでみたいと秘かに思っていた作家
さんだったので、読めて良かった。長編も読んでみたくなりました。


豊島ミホ「瞬間、金色」
これは読んでいて瀬尾さんの「温室デイズ」を思い出しました。主人公二人の関係や、イジメ
の描写を淡々と描いているところも似てるし。高校で安易に不良の道に走っちゃうところは
ひねりがなくてあまり好きになれなかったけど、二人の紆余曲折の過去があったからこそ、
ラストシーンはなかなかに感動的。苦労した人間程、幸せになる権利はあると思う。


伊坂幸太郎「残り全部バケーション」
伊坂さんらしい設定ではあるのだけど、ちょっとご都合主義すぎるかなぁと思いました。
離散一歩手前の家族と詐欺師の世界から足を洗おうとする男。短編だといまひとつ良さが
出なかったかな、という感じ。ラストもあっけない。家族がどうなるのかも、岡田がどう
なるのかも、結局よくわからないまま。これはこれでいいのかもしれないけど、期待してた
だけにいまひとつ不満が残る作品でした。




それにしても、伊坂さんを最後に持ってくる辺り、出版社も計算高いですよねぇ。おいしい
ものは後回しにしておいて、最後まで読ませようって魂胆でしょうか。まぁ、アンソロジー
だから必ずしも収録順に読む人ばかりではないでしょうけど。

どれも明日への第一歩を踏み出すことがテーマになっているので、読後はそれなりに爽やか
でした。突出したものはないけど、読みやすいので気軽に手に取ってみて頂きたいです。
いろんな作家に一度に出会えるのも、こうしたアンソロジーの楽しみの一つですしね。