ミステリ読書録

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横溝正史/「本陣殺人事件」

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横溝正史「本陣殺人事件」。

昭和十二年、岡山県の農村の資産家・一柳家の主人が婚礼の夜に、離家で新婦と供に血まみれの
死体となって発見された。現場は密室であり、離家の周囲は雪が降り積もっており、足あとは
一切見つからなかった。花嫁の叔父・久保銀蔵は、この奇妙な密室事件を解き明かしてもらう
べく、パトロンとなっている金田一耕助を呼び寄せるが――。



えーと、ものすごく久しぶりにこの書庫の更新をします(実に約2年ぶり!?)。って、
誰もこんな書庫があったことすら知らないとは思いますけど^^;ブログ始めた当初に、
自分が過去に読んで影響を受けた古典ミステリも紹介して行こう!と勢い勇んで作った
書庫なのです。
ただ、この書庫は軽くでも再読しないと記事が書けない為、なかなかそれが実現せず、
そのうち放置状態に^^;当初の予定ではカーとかポーとかクリスティとか、
海外作品もこれから出して行こうとか思ってたんですけどね(最近はめっきり
読んでませんが、以前に海外の古典ミステリにはまった時期もあるのです^^;)。

さて、久しぶりに再読したのは正史の代表作の一つ、「本陣殺人事件」。
今回、何故再読しようと思ったかというと、中に収録されている「黒猫亭事件」を読みたかった
から。少し前に正史の「殺人鬼」を読んだ時に、他の方からお薦めされて、読んだ筈なのに
全く内容を思い出せなかったのでずっと読み直したいと思っていたのです。三津田さんの
「山魔~」を読んで、無性に正史が読みたくなって、この機会に再読しちゃえ!と思った
次第。ちなみに今回読んだのは角川文庫で杉本一文さんの挿絵。すっごく怖いです、表紙^^;

今回再読してみて、「本陣~」の内容はほとんど覚えていたのだけれど、案の定、他の二編は
全く初読と言っていい程記憶から抜け落ちていました^^;それほど「本陣~」が強烈な印象を
持っていたとも言えるのかもしれませんが。ただ、他二編も何故忘れていたのだろう、と
首をひねってしまうほど、完成度が高かったです。それでも、やっぱり「本陣~」の出来の
素晴らしさには改めて感服しました。改めて読み直してみると、驚く程細かく伏線が張られて
いることがわかります。全ての要素が謎解きに結びつくよう、周到に緻密に描かれている。ただ、
一つ不満を言えば、この密室を仕掛けた人物のある性癖についての描写が謎解き以前に語られて
いない点。それは金田一耕助のみが知りうる事実であって、読者が動機の点から推理するには
アンフェアのように思いました。私が単に読み逃しただけかもしれませんが^^;
作中で、探偵小説を読んで機械的トリックのオチだとがっかりするなどと金田一耕助に言わせて
おいて、このトリックを持ってくるところに、正史の機械トリックへの強気の挑戦が見受け
られるように思います。それは「黒猫亭事件」の『顔のない死体』のトリックに関しても
思ったことですが。

当初の目的だった「黒猫亭~」もとても面白かったです。トリックはもちろんのこと、語り手
のY先生(横溝先生ですよね)との初邂逅にもほのぼの。本当に、金田一耕助という人は
憎めない人物で、人を惹きつける力がありますね。
もちろん、『顔のない死体』に隠された真実には唸らされました。
実に悪魔的な犯罪というか。犯人には嫌悪しか感じませんでしたが・・・。

間に挟まれた「車井戸はなぜ軋る」も良かったです。これもいわば『入れ替わりトリック』
に真っ向から挑んだ作品。復員して帰って来たのは本当にその人物なのか。叙述的なトリック
ともあいまって、すっかり騙されてしまいました。手紙の語り手の末路が悲しい。こんな
悲劇に見舞われなければ、もっと違う人生を歩めていたのかもしれない。


やっぱり正史は素晴らしいですね。全体に漂うケレン味、おどろおどろしさ、叙情性、
すべてが正史にしか出せない世界があって、私の心を惹きつけてやみません。たまに顔を出す
滑稽さも正史の稚気を感じて微笑ましい。
もちろん、何より優れているのは謎解きの面白さですが。驚く程の緻密な伏線と構成は
さすがとしか言い様がないです。三津田さんも良いけど、やっぱり本家本元は別格だなぁ
と思わされた作品でした。
名作は、いつ読んでも色褪せないものです。