ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗/「家日和」/集英社刊

奥田英朗さんの「家日和」。

42歳の紀子は、子供の成長に伴い家族で外出することもなくなって、平凡な毎日を
過ごしていた。そんな時、ピクニック用の折りたたみテーブルが不要になったので、ネット
オークションで売りさばくことにした。パソコンは初心者だったが、見よう見まねで出品
してみると、無事落札され、落札者からも好評価を得てスムーズに取引が出来たことに快感を
覚える。それがきっかけでネットーオークションにはまり、次々と出品するものを探し始める。
楽しみを見つけたことで、生活に張り合いが出来、少しづつ変わって行く紀子だったが、思わぬ
落とし穴が・・・(「サニーデイ」)。「家」をテーマにした6篇の短編集。


タイトル通り、「家」をテーマにした6つの短編が収録されています。奥田さんらしい短編
ばかりで、とても楽しめました。相変わらず人物描写がリアルで、巧いなぁという感じ。
まぁ、私は独身なので、家庭を持っていない分、家庭内の描写に関しては想像でしかないわけ
ですが^^;どの話も「一体この後どうなっちゃうんだろう?」とひやひやさせる展開に
なるのですが、最後はなぜかほのぼのとした気持ちで読み終えられる話ばかりでした。
やっぱり奥田さんの短編は面白い。




以下各作品の短評を。


サニーデイ
平凡な主婦がネットオークションにはまって行く過程がリアル。オークションをするようになった
くらいでそんなに外面も変わるのかなという疑問は多少感じたものの、生活に張り合いがあると
人間って多分生き生きして見えるんだろうな。オークションかブログの違いってだけで、パソコン
依存に関しては私も同じなので、紀子がネットにはまる過程はすごく共感できました。


「ここが青山」
これは一番好き。会社が倒産したにもかかわらず、ここまで悲壮感のない家庭も珍しい。でも、
このあっけらかんとした夫婦の関係がすごく良かった。夫が働けないなら自分が働くとばかりに、
即行で職場復帰しちゃう妻のバイタリティもすごい。でも一番すごいのはやっぱりあっさりと
主夫業に順応しちゃう主人公かも・・・息子とのブロッコリー対決が微笑ましかった。
どんな艱難辛苦があっても、この家族なら乗り越えて行けるだろうな。ある意味理想の家族かも。
「人間いたるところ青山あり」。恥ずかしながら初めて知りました(無知!!)。当然、この
作品を読まなかったら「にんげんいたるところにあおやまあり」と読んでいたかと思うと・・・(恥)。


「家においでよ」
別居を機会に、自分好みに部屋を模様替えして自分だけの『空間』を作りあげる。そりゃー
楽しいだろう。こんな居心地の良い部屋があったら、遊びに行きたくなりますよねぇ。大学生の
『たまり場』と一緒ですね。中年のオッサンが集まって学生よろしくワイワイはしゃいでいる
光景はなんだか微笑ましかったです。奥さんの立場に立ったらたまらないでしょうけどね^^;


「グレープフルーツ・モンスター」
これは唯一全く共感できない作品でした。夫婦の倦怠期が来て生活に張り合いも刺激も
なくなったら、こういう気持ちになるのかな。でも、理解できなかったのは、主人公が相手の
青年に嫌悪を抱いているのに、誘惑するような言動をするところです。私だったら生理的に
嫌だなぁ。青年の描写も全く魅力を感じなかったし、理解不能でした。


「夫とカーテン」
夫が職場を辞める度に妻の新しい才能が開花するっていうのは面白いですねぇ。そうやって
夫婦はバランスを取って行くものなのでしょうか。普通に考えたらこんな転職ばかりの男は
信用できませんが、これに出て来る栄一はなぜか憎めないキャラで、人から信頼されるのも
わかる気がしました。でも、私が妻の立場だったらやっぱり安定を求めると思うなぁ。


「妻と玄米ご飯」
主人公のモデルはもちろん奥田さんご自身でしょうね。完全に自虐ネタでかなり笑えました。
ロハスを揶揄した小説を書きたい。けど、ロハス擁護者の妻の手前書けない。このジレンマ
でじたばたするところが可笑しい。もしかして、奥田さんの奥様もロハスにはまっていたり
して?だとしたら、奥田さん、この作品を発表して、もしかして肩身の狭い思いをしてる
かも・・・?(笑)でも、最後に勝つのはやっぱり妻ってところが、すべての家庭の円満の
秘訣なのかもしれませんね。




家って、家庭っていいなぁとほんわかできる短編集でした。
奥田さん、やっぱり好きだな~。