舞城王太郎さんの「ディスコ探偵水曜日 上・下」。
迷子捜し専門の米国人探偵・ディスコ・ウェンズデイ。あなたが日本を訪れたとき、〈神々の黄昏〉
を告げる交響楽が鳴り響いた――。魂を奪われてしまった娘たち。この世を地獄につくりかえる
漆黒の男。時間を彷徨う人びと。無限の謎を孕む館・パインハウス。名探偵たちの終わり無き饗宴。
「新潮」掲載+書下ろし1000枚。二十一世紀の黙示録、ここに完成(新潮社HPよりあらすじ抜粋)。
あらすじ考えられません。すみません(思考力停止中)。えー、やっと読了です。ここ一週間ばかり
ずーっとずーっとこの本と付き合ってました。今年は結構大作系も多く読んでますが、その中でも
一番気力体力忍耐力が要る作品だったかも・・・笠井さんの「青銅の悲劇」もかなり苦戦した作品
でしたが、これは全く別の意味で読むのが大変な作品でした。
ただ、これが退屈な作品だったかというと全くそうではないのです。舞城ワールド大炸裂で、舞城
フリークにはたまらない内容のオンパレード。私としては、ものすごく興奮して楽しんで読めた部分
と、なんじゃこりゃーわけわからん意味不明降参!って本を投げたくなる部分とが交互にやってくる
ような感じでした。簡単に内容を言ってしまうと、主人公のディスコ・ウェンズデイ氏(名前が
すごいね。ぷぷ)が何の血の繋がりもないのに行きがかり上引き取って大切に育てている6歳の
いたいけな女の子・梢ちゃんを救済する為、時空とか空間とかを飛び越えてあーだこーだ回り道を
しながら時には殺人事件の謎を解いたり、人を殺したり(!)殺されたり(!!)甦ったり(!!?)
しながら奮闘するお話です・・・ってわけわからんでしょ、やっぱり。とにかくこれは読んでみなさい
としか言えません。作中であの名作『世界は密室でできている。』のルンババ12や友紀夫が出て
来たり、九十九十九や西暁市や調布市、奈津川の名前が出てきたりと、ファンならばにやりとできる
設定もちらほら出てきます(ただし、完全に同じ人物や土地ではないと思われますが)。
個人的に一番面白かったのは上巻の名探偵たちが順番に三田村三朗殺害事件の謎を解いては
その推理があっさり覆され、また次の探偵が推理を開帳していく推理合戦のくだり。説明聞いても図解
があってもさっぱりピンとこないものばかりではあったのですが(汗)、ミステリ好きとしては本格
テイストたっぷりのこの部分は読み応えがありました。まぁ、推理が間違っているとわかった瞬間
その名探偵たちがこぞって片目を潰して死んじゃうという設定はどうかと思いましたが・・・。
ロボトミー手術のくだりなんか読んでて気が遠くなりそうになりましたもん^^;うう、気持ち悪い。
途中読んでて嫌悪感を覚えるシーンはとてもたくさんあるので、グロ系がダメな人はちょっと
辛いかも(冴さんが中断された気持ちもわかるような)。空想と現実の境界が曖昧で、その手の
シーンも非現実感があるので、まだ読み進められましたが。
上巻はミステリ色が強かったですが、下巻は完全にSFファンタジーの世界。終盤の展開はもう、
何が何やら状態でした^^;何でもアリのしっちゃかめっちゃかというか、正直、一体何が書きたい
のか私にはあまり汲み取れなかった部分もありました。三億人の子供をさらうとか、あの辺りは
やりすぎじゃないのかー!?と思いました。舞城さんも結構迷いながら書いたのではないか
なぁとか思ったりもしたのですが。文体も上巻と下巻で少し変わってる感じがしましたし。どちら
かというと、上巻の方が舞城さんらしくない印象はありましたが。いつもの読点が極端に少ない
文体は影を潜め、割合読点を多く使って『普通の』文体で書かれているので意外でした。読みやすい
ことは確かなのですが、舞城さんの破綻しながらもスピード感のある文章が好きな自分としては
ちょっと残念に感じました。内容的にはピカ一なくらい壊れてるんで(苦笑)、舞城さんらしい
作品なのは間違いない所なんですが。独特の会話文やネーミングセンスもそのままですし(特に
パインハウスに集まる名探偵たちの名前には笑いました)。それに、なぜか下巻はいつもの舞城
文体に少し戻ってました。下巻だけ書き下ろしだからなのかな。
結局最後まで読んでも『?』の印象はあったのですが、なんとなく最後は爽やかな気分になれた
から不思議。いや、もちろん読了したー(=解放された?^^;)!!という満足感が一番
おっきかったですけども(笑)。
舞城ファンならば是非読んで欲しい力作であり傑作だと思いますが、舞城初心者にはとても
お薦めできません。おそらく、途中棄権になってしまうような気が・・・。私だって日本語の
意味がわからなくて、ただ字を追ってるだけの箇所がどれだけあったことか^^;それでも
挫折したいとは一度も思わなかった。なんだかんだいって、舞城さんの世界が大好きですからね。
わけわかんないシーンがいっぱいあっても、残虐で猟奇的なシーンに気が遠くなりかけても、
全体通して言いたいことは何となくわかるから。とてもシンプルで大切なこと。『子供を救う』
という強い思い。愛です。これは間違いなく、愛と救済の物語なんだと思います。
ディスコと水星Cのコンビも結構好きだったな。水星Cはまた何かの作品に出てきそうな
気がする。でも、和菓子作ってる姿が想像できないんですけどー・・・。