ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田忠司/「予告探偵 木塚家の謎」/C・NOVELS刊

太田忠司さんの「予告探偵 木塚家の謎」。

猫マニアで猫に関する膨大なコレクションを誇る辻宮化学の創始者・故辻宮俊憲の墓所落成式で、
孫娘・史織の婚約者が姿を消した。史織の元には、傲岸不遜な予告探偵・魔神尊が予め勝手に
事件の予告をし、謎を解くと宣言した予告状が送りつけられていた。予告状の時刻になり、
魔神は例のごとくに事件の真相を語り始める――あの予告探偵が帰って来た!待望の第二弾。


あの傲岸不遜のトンデモ探偵・魔神尊が帰って来ました。・・・って、帰ってくるのかよ!
思わずツッコミを入れたくなってしまったことは言うまでもありません。あの前作の壁本寸前の
ラストの衝撃から早二年以上が経っているにも関わらず、この万年健忘症の私が鮮明に内容を
覚えていることからしても、受けた衝撃の度合いが大きかったことが伺えるかと思います
(どんな尺度だよ^^;)。
しかし、あのラストを受けて、あれ以上の作品を書くのはある意味難しいのでは・・・と
恐る恐る読みましたが、さすがにそこは太田さん。いろんな仕掛けが作中に施されています。
最初に気付くのはそれぞれの短編に出て来る『木塚』が全て別人だということ(東吾だけは
前作に引き続き登場し、本書でも二度出てきますが)。現在過去未来、それぞれの時代の
木塚家の血を引く人物が魔神のワトソン役を務めます。でも、ここで引っかかるのは木塚氏
は各作品ごとに明らかに別人であるのに対し、魔神尊のキャラは全て同一人物であるように
描かれていること。名前も一緒だし、傲岸不遜で勝手に事件が起きると思われる人物の元に
予告状を送りつけ、木塚をワトソンにして謎を解きにその家に出向く。時代が違うのに、
何故魔神は生き続けていられるのか?もしや太田さんお得意のファンタジックな設定なのか?
魔神は人造人間で永遠に死なない命なのか?などといろいろ考えながら読んでました。
・・・が、ラストで明かされる事実にまたも呆然。確かに、言われてみると魔神に関する
ある描写が全く出て来ないことに気付かされ、これを狙っていたのかーーと納得。うーん、
またしてもやられました。そ、そんなバカなーーとも思わなくもなかったけど、このシリーズ
らしい落とし方だなぁと嬉しくなりました。うん。実に太田さんらしい仕掛けだと思うな。
今回は前作で憤った人も、それ程の壁本ではないんじゃないかなぁ。私はこういう驚きが
隠されてる本が大好きなので、十分楽しめました。それぞれの短編のミステリ部分は
さほどの特筆すべきものではないんだけど、最後まで読むと大掛かりな(?)仕掛けが
見えて来ますのでご注意を。
しかし、ここまでやっちゃうともう次はないよね・・・ちと寂しい。


ちなみに、カバー折り返しに、この本はこんな方におススメだと書いてあります。


ベタなくらい古典的なミステリがお好きな方。

腰が抜けるくらいおバカな話でも許せる方。

傲岸不遜で傍若無人な探偵に我慢できる方。

ワトソン役がとことん情けなくても大丈夫な方。


一つでも当てはまる方は是非この本を手に取りましょう!
ちなみに、私は全部当てはまってます(笑)。
読まれる方は是非、前作の脱力を味わってからにしましょう
壁本だったとしても責任取らないけどね!嬉しくなるくらいバカミスだからね!)。