ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

黒川博行/「悪果」/角川書店刊

黒川博行さんの「悪果」。

大阪今里署のマル暴担当刑事・堀内は、警察内部の情報を売って小金を稼いでいる。そのデータと
引き換えに、淇道会が賭場を開いているという情報を入手した堀内は、深夜の賭場に突撃侵入し、
一斉検挙に成功する。その中の一人に『理事長』と呼ばれる学校法人の理事長がいることを知った
堀内は、その情報を経済タブロイド誌を発行している坂部に流し、タブロイド誌に理事長の常習
賭博の記事を書くことで理事長を強請ろうとしていた。しかし、その約束を取り付けた直後、坂部
がひき逃げにより死亡し、堀内は何者かに追われ始める――。警察ハードボイルド小説。第138回
直木賞候補作。


直木賞候補作になっていて、世間でなかなかの好評価を得ていて気になっていた作品。警察小説
というのは聞いていたので弱冠読むのに躊躇したのですが、開架で見かけたので思い切って借りて
みました。
・・・これが、とにかく出だしからつまづいた。いきなり麻雀のシーンでわけがわからず、しかも
主人公が警察の内部情報を漏らして小金を稼ぐという、とんでもなく悪徳な警察官。その妻は変な
団体活動にはまって夫婦仲は冷え切り、夫が愛人を囲っていても何の反応もない。読めば読む程
嫌悪ばかりを感じる描写の連続で、ほんとに挫折寸前でした。数ページ読んでは「もう止めよう」
と本を閉じ、「でもあとちょっと読んだら面白くなるかも」と期待を込めて読み続けてはまた
ページを閉じる・・・100ページ過ぎくらいまではほんとにこれの連続。基本警察小説が苦手
なのに、出て来る登場人物も誰一人好感が持てないからどう読むモチベーションをあげて良いのか
わからなかったです^^;しかも人物関係がかなり複雑で、誰が誰だか把握するのに一苦労。ページが
思うように進まず、完全に読書スランプがやってきたかと焦りました。でも、この間読んだ
今野さんの『隠蔽捜査』だって、途中から俄然面白くなったし、これもそうかもしれないと、
とにかくいつもの如く意地で読み続けてみたら、これがやっぱり途中から結構面白くなり、
すいすいページが進むようになったのでした。もう、途中からは完全にピカレスク小説と割り切って
読みました。堀内の人物像は、今野さんの竜崎のようには最後まで全く覆らなかったですが、
ラストの彼の引き際の潔さと、相棒に対する思いやりだけはちょっとだけ感心しました。
それにしても、ラストは黒い。タイトルの『悪果』というのは、仏教用語『悪いことをすると
悪い結果が待っている』というような意味だそう。なんとなく、このラストに繋がるような
伏線は出てくるので、やっぱり・・・という感じではあったのですが。悪いことするとこう
なっちゃうよって言いたかったんだろうなぁ。怖い怖い。中盤以降は一気に読めたけど、やっぱり
好きな作品ではないですね。前原メモを巡る敵との駆け引きや、それをネタにした堀内と森本の
取引もあっさり解決しすぎて拍子抜け。堀内はもっと危険な目に遭うのかと思っていたのですが。
ただ、その先の結末を導く為に、そこはあっさり流したのかもしれないですが。堀内の妻の存在も
いまいち中ぶらりんなままだったのも気になりました。彼女がその後どうなったのかまで書いて
欲しかった。まぁ、結末は見えてる気はしますけど。意味深な設定なので、彼女の存在が誰か
敵側と繋がっているのかとか、変に勘繰ってしまった。それを言ったら愛人の杏子もですけど^^;
杏子もわけわからない存在だったなぁ。最悪の女に最低の男。堀内と杏子のシーンはほんとに
読み飛ばしたくなるくらい嫌悪しか感じなかったです。

確かに腐った警察内部の描写なんかは特筆すべきものがあるでしょうし、悪漢小説としての出来は
評価できると思う。でも、やっぱり読んでてどんよりしてしまった。登場人物が魅力的でないと
やっぱり読んでても楽しくないんだよね。堀内は、今野さんの竜崎とはまさに正反対のキャラクター
だと思う。こんな警察官ばかりだったら、日本の警察は終わってるね・・・。こんな小説書いて、
黒川さんは警察から苦情が来なかったんだろうか・・・と変な心配をしてしまった^^;
これを直木賞候補にした選考委員も思い切ったなぁと思いますけどね。

とにかく、今年初の挫折本にならなくてほっとしました。アマゾンの評価も★4つと5つしか
ないし、こんな評判の作品を挫折するのはやっぱり気がひけるもん^^;
560ページ超えで分厚かったけれど、読みきれて良かったです。でもなんか疲れたなぁ・・・。