ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鳥飼否宇/「樹霊」/東京創元社刊

鳥飼否宇さんの「樹霊」。

植物写真家の猫田夏海は、北海道日高地方古冠村の山中で土砂崩れによって移動したミズナラ
巨木が倒れずにそのまま立っているという情報を得、単身取材に赴く。役場の職員鬼木洋介の
案内で現地に向かうと、アイヌの森はテーマパーク< 神の森ワンダーランド >建設の為、乱開発
され悲惨な状態になっていた。その開発に反対していた人権擁護運動に尽力していた道議会議員
失踪した。一方、村では街路樹のナナカマドが移動するという謎の珍事件が頻発していた。その上、
< 神の森ワンダーランド >建設現場付近で作業員二人が巻き添えになる崩落事故が起こり、その
崩落で流された巨木のエカシがまたも奇跡的な移動を遂げたというのだ。度重なる木の移動は
アイヌの森を汚した呪いなのか!?猫田は知人の< 観察者 >鳶山に助けを求めるが――。
ミステリフロンティアシリーズ。


久々のミステリフロンティア。といっても、私の中では猫田・鳶山シリーズの続編という
印象が強い本書。よく行く図書館では蔵書がない為なかなか読めずにいましたが、先日行った
中央図書館でゲット。前二作同様、なかなか凝った本格ミステリで楽しめました。ただ、
アイヌのカタカナ用語や木の名前ががなかなか頭に入って来なくて苦戦。ちょっと読み
難かったです^^;猫田さんが役場の職員の青年に好意を持ってしまうのが意外でした。
前二作読んで猫田さんは鳶山さんのことが好きなんだとばかり思っていたので。まぁ、
その印象は間違っていた訳ではないですけど。惚れっぽい性格なのかなぁ。確かに、鳶山
さんが相手じゃ恋も成就しなさそうだから、他の人探した方がいいような気はしますが^^;

街路樹の木や建設現場付近の巨木が移動する謎の真相は面白かった。なるほど、そういう
からくりかぁ、と素直に感心。丁寧な論理展開と伏線の回収はさすが。木の移動という、
前代未聞の謎を提示するところが鳥飼さんらしいオリジナリティだな、と思いました。犯人は
案の定という感じではありましたが、動機部分を読んで、鳥飼さんがこの作品で伝えたかった
ことがそこに凝縮されているのかな、と思いました。犯人の心情は理解できなくもないけど、
それを理由にして人を殺してしまうことは単なる犯人のエゴでしかなく、到底共感はできません
でしたが。

読んでいて、去年行ったオーストラリアで見た巨大な神木を思い出しました。生で見たら息が
止まるかと思うくらい迫力があって、神がかっていて圧倒されました。写真撮ったら『木霊』
らしき白い光がたくさん写っていたしね・・・(ちょっと、こわかった^^;)。きっと、アイヌの森
にもそんな圧倒的なオーラを放つ巨木がたくさん存在するんだろうな。その自然を不用意に
破壊することはやっぱり、神への冒瀆なのかもしれない。アイヌの神木たちには樹霊が宿っている。
そんな風に信じそうになる作品でした。このシリーズはやっぱり面白い。あと一作あるみたいですが、
図書館で見かけたことないんだよなぁ。文庫??古本屋で探すかな。