ミステリ読書録

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小路幸也/「brother sun 早坂家のこと」/徳間書店刊

小路幸也さんの「brother sun 早坂家のこと」。

あんず、かりん、なつめの早坂家の三姉妹は、早くに母親を亡くし、父親に育てられてきた。
そんな父が年若い女性と再婚し、一児を授かったことを機に家を出てからは、三姉妹だけで
暮らしてきた。父と義母と異母弟はすぐ近所に住んでいて、互いに行き来しつつ良好な関係を
築いてきた。三姉妹は、思い立って父と義母の結婚記念日に新婚旅行をプレゼントすることに。
結婚式も挙げず、新婚旅行も行かなかった二人に、新婚気分を味わってほしかったのだ。その間
異母弟は三姉妹の家で預かることになり、二人は出かけて行った。しかし、二人が留守の間に
長年知らずにいた伯父が突然訪ねて来て、三姉妹は大混乱。穏やかそうな人だが、父とはひとかた
ならぬ因縁があるようで――三姉妹をめぐる、家族の物語。


奇跡の行幸で手に入れた新刊、最後の一冊。小路さんの最新作です。といっても、毎月のように
新刊が出まくっていて、最近、どれが新刊なのかわからなくなってきてる状態ですが^^;
よくもまぁ、これだけ毎月本が出せるよなぁと小路さんの創作意欲には脱帽するばかりです。
ウン年に一作しか新刊が出ない新本格作家さんたちもちょっとは見習ってほしいよなぁ・・・
(ぼそぼそ)。

ただ。正直、最近の小路作品は量産するばかりに内容が薄っぺらく感じてしまうことが多い。
しかも、どの話もどこか似通っていて、オリジナリティに欠ける印象を受けてしまう。本書も
例に洩れず。三姉妹の視点から語られる家族の物語ですが、終盤、彼女たちが結婚して大家族
になって行くくだりはバンドワゴンシリーズと何ら変わることがなく、二番煎じの印象が否めない。
相変わらずいい人しか出て来ないし、すべてが大団円の方向に進んで行く。小路ファンには
そういうところが絶賛されるのかもしれないけれど、私としてはそこにもう一つ何か違う要素
を入れて欲しいと思ってしまう。どうも、展開がどれも似通っていて、読み終えて残るものが
ないのです。
多分、この作品だけを単独で読んだのであれば、家族の温かい『いい話』という印象の作品に
なるのかもしれませんが、かなりの数の小路作品を読んで来たいちファンとしては、大団円に
向かう為の、ご都合主義に感じなくもない偶然の連鎖といい、類型的なキャラ造形といい、
「ああ、またか」という印象はぬぐえませんでした。
ただ、本書が他の作品と違うところは、最後に付け加えられた後日譚。多分、これに関しては
賛否両論あるだろうと思います。いつもの小路作品にはない、暗雲立ち込める展開なので。確かに、
その直前で『人生何があるかわからない』とあんずが未来を暗示するようなことを述べているので、
それを受けての内容にしたかったのはわかるのですが。率直な意見を云うと、個人的にはここまで
書く必要はなかったのではないかと思う。変に読後感を悪くしただけで、作品に何らのプラスも
与えていないので。そこは、読者にゆだねる形で良かったと思うのですが・・・。今まで『良い人』
だと思っていたある人物の印象がそこで一気に悪い方に落とされてしまって、すごく後味が
悪かった。もう一人に関しては、なんとなくいまいち好感が持てずにはいたのですが。まぁ、
成長した陽がいい子に育っていたのがせめてもの救いですが。その前の章で終わっていれば、
大団円でいつもの小路作品のように温かい気持ちで読み終えられたと思うので、そこは残念でした。
小路さんも、いつもとは違う着地点にしたかったのかもしれませんが。

私も姉がいるので姉妹を描いたという点では感情移入しやすかったのですが、ここまで相手の
ことを理解して仲良くって感じじゃなかったので、そこは羨ましかったです。まぁ、姉妹仲は
普通よりは良かったと思いますけれど。結婚した兄のお嫁さんが三姉妹の長女で、三人とても
仲が良いので、彼女たちのことをどちらかというと思いだしました。なんだかんだいって、何か
あった時、一番頼れるのって家族なんですよね。

どうも、最近の小路作品には個人的に当たりはずれがあるなぁ。いつもの小路さんらしい作品では
あるので、小路ファンなら楽しめるとは思うのですが。何かマンネリな印象で、読み足りない
感じ。読後感もあまり良くなかったし、いまひとつ楽しみきれず残念でした。