ミステリ読書録

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深水黎一郎/「エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ」/講談社ノベルス刊

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深水黎一郎さんの「エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ」。

世田谷の高級住宅街の洋館の一室で、画廊主の変死体が発見された。現場は全ての窓やドアが施錠
された密室だった。貴重な芸術品には一切手がつけられていなかった。事件を担当する海埜刑事は
早速捜査に乗り出す。すると、気ままに世界を巡って行方をくらましていた海埜の甥・瞬一郎が
殺された洋館に突然現れた。瞬一郎は生前、被害者から館の絵を見せてもらう約束をしていたという。
被害者は、20世紀に活躍した芸術一派、エコール・ド・パリの画家たちの膨大なコレクション
を自宅に所蔵していた。海埜は、瞬一郎の協力のもと、被害者が書いたというエコール・ド・パリに
関する美術書と供に事件の真相に迫る――。


メフィスト賞受賞の一作目はいまいち食視が湧かなかったのですが、本書はタイトルからし
気になっていた美術ミステリ。しをんさんのエッセイと供に中央図書館で発見して嬉しかったです。
エコール・ド・パリに関しての知識はそんなになかったのですが、知ってる画家がかなり
属していることがわかりました。大好きなフジタもそうですし、モディリアーニシャガール
ユトリロヴラマンク・・・錚々たるメンバーの名前がズラリ。ただ、本書で一番の鍵となる
スーチンのことはほとんど知りませんでした。今まで行った美術展で多分何度か実物を目には
しているでしょうけど、さほど注目して観たことがなかったせいか、全然記憶にない。名前に
なんとなく覚えがある位。パリのオランジュリー美術館は私も行きましたが、本書の作中作
『呪われた芸術家たち』の中で述べられているように、多くの観光客と同様、モネの睡蓮の間では
じっくり時間を割いても、スーチンの絵の前では佇むこともなく通りすぎたのでしょう。今と
なっては後悔するばかり。エコール・ド・パリ随一の天才画家だったとは・・・(あくまでも、本書の
被害者であり『呪われた~』の著者である暁宏之の説では、ですが)。
この作中作がなかなかの傑作で、美術好きとしては非常に興味のある内容で勉強になりました。
特に、フジタの戦争画に関しての考察や、佐伯祐三の非業の死に関する記述は興味深かったです。
フジタの戦争画に関してはフジタ展なんかで知ってることも多かったのですが、佐伯が、敬愛する
ヴラマンクに罵倒されかなり精神的なダメージを受けていたとか、最期は発狂死だったなんて
ことは知らなかったので驚きました。佐伯の絵は去年、箱根に旅行した時に行った美術館で開催
されていた佐伯祐三展で観ていたので、寂しい生涯を送っていたと知って、なんだかこちらまで
悲しい気持ちになってしまいました。芸術家って、やっぱり波乱万丈の人生を送る人が多いん
ですねぇ・・・。

で、肝心のミステリ部分ですが、少々不満もありました。『事実上の』犯人はやっぱりな~って
感じでしたし、密室の真相にはかなりがっかり。だから、こういう真相の作品は好きじゃない
んだってば・・・。ただ、事実上の犯人が用いた犯行方法に関しては素直に感心。これは今までに
なかった手法じゃないですか?○○○による○殺。きちんと伏線も散りばめられていますし。
『読者への挑戦』がついてるのもミステリ好きとしては嬉しい。ただ、毎度の如く、戻って伏線
を探って推理するなんて過程は経ずに、さっさとページをめくりましたが(意味なし)。

最後に明かされるある人物の死の真相には切ない気持ちになりました。あまりにも悲しい、不必要な
死なのが虚しい。ただ、この事実を最後に明かすことで、余韻の残る作品になったところは
良かったと思いますが。









以下、ネタばれあります。未読の方はご注意を!
















でも、被害者である暁宏之の自殺の理由にはちょっと納得がいきませんでした。今まで妻に
あそこまで傍若無人に振る舞っていた人間が、妻の真意を知っていきなり今までの自分を反省
するなんて、どうにも腑に落ちません。人間、そんなに簡単に人格変えられないと思んですが。
しかも、自分を殺そうとした人間をですよ。今までの暁の性格からすると、妻に殺意を覚えこそ
すれ、妻をかばって自殺なんて、全く説得力がないと思いました。その辺りは描写力不足の
せいかなぁ。

あと、結局、暁兄弟の父が生前、弟に画廊を譲ると言っておいて、遺言を書き変えていたのはなぜ
だったんでしょうか。そこも何かの伏線かと思ってたんだけどなぁ。
















意味もなく登場しては寒いギャグを連発する大癋見警部のキャラは、はっきり云ってすべり気味
でしたが、私は結構笑えて面白かったです(まぁ、作品には完全に不要だったと思うけど^^;)。
生真面目な海埜刑事と、飄々とした自由人キャラの瞬一郎のコンビは結構気に入りました。
瑕疵もありましたが、概ね楽しめる美術ミステリでした。続きも読もうっと。
ところで、この作品って、メフィスト賞受賞作の続編なんでしょうか・・・??なんか、同じ
キャラが出て来るみたいですが。でも、本書の探偵役である瞬一郎はこの作品が初登場っぽい
登場の仕方だったんだけどなぁ・・・一作目も読んだ方がいいかな。


最後に、本書で鍵となるスーチンの絵を一枚を紹介しておきます。この絵の中に、真相に到る
大変重要なヒントが隠されています・・・って言っても、絶対わからないと思うんだけどね・・・^^;

ハイム・スーチン『赤い衣裳の女』
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