ミステリ読書録

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朱雀門出/「今昔奇怪録」/角川ホラー文庫刊

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朱雀門出さんの「今昔奇怪録」。

町会館の清掃に妻と共に参加した私は、一段落して休憩しようと給湯室に行く途中の廊下に
置いてある本棚に目を止めると、『今昔奇怪録』と題された二冊の本を見つける。ぱらぱらと
中を読んでみると、地域の怪異を集めた怪談集であることがわかった。興味を引かれて家に持ち
帰ることにした私は、帰りの道中奇妙な子供が私の脇を駆け抜けるのを目にする。これは、今
手にしている本の中の一編に出てきた『ぼうがんこぞう』ではないのか――そう思った時には、
気がつくと記憶の一部が抜け落ちていた――第16回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作
を含む5編を収録。


表題作の『今昔奇怪録』日本ホラー小説大賞短編部門受賞作。タイトルから時代ものの
連作短編みたいな感じなのかな、と思って興味を引かれたのだけど、全然違ってました^^;
表題作は水木しげるさんとか京極さんの作風に近いような、妖怪が出て来る怪異譚。時代は
現代なのですが、主人公が発見した古い怪奇録の中の文章なんかも引用されているので、
なんとなく昭和のレトロな雰囲気を感じる作風。本の中の怪奇が現代にまで浸出して来て、
現実と幻想怪奇の区別がつかなくなっていくという、独特の酩酊感のある作品。表題作は
かなり作風や設定的には好みの作品だったのですが、いかんせん短編なのでちょっと読み応えが
なく、物足りなさを感じました。残念だったのは、最初にタイトル羅列した時に一番気になった
『死体生け花の煉瓦屋敷のこと』の内容が書かれなかったこと。どんな内容だったんだろ。
死体生け花っていうと、皆川博子さんのに収録されていた『妙に清らの』の強烈な
ラストシーンを思い出すのですが。うう、気になる。
他の作品もそこそこ面白く読んだのですが、個人的にはこの表題作をもっと膨らませて連作
形式のような形で読ませて欲しかった気がします。それぞれの話の設定がまるでばらばら
なので、ちょっとまとまりのない短編集って感じがしました。文章や表現力の点では安定
した実力を持っているように思いましたが、後半の二編では専門用語の説明がだらだらと
続くところがあって、読みづらく、冗長な印象も。まぁ、これだけバラエティに富んだ
ホラーが書けるという点では評価すべきなのかもしれませんが。ただ、正直ラストの『狂覚』
は何が書きたかったのかさっぱりわかりませんでした。新しい手法なのかもしれないけど、
読み終えて『だから、何?』って感じでした。こういうわかりづらい作品は苦手。怖いと
云えば怖いんだろうけど・・・。なんだかよくわからなかったので、作者が意図した『怖さ』
を感じ取ることが出来ずに終わってしまって残念。でも、ホラー好きの人には評価が高い作品に
なるかもしれません。

作品としてはやっぱり表題作が一番好きでした。次点は『疱瘡婆』、次が『釋迦狂い』
・・・って、収録順じゃんか(笑)。『疱瘡婆』は、愛するわが子を亡くした父親が少し
づつ狂い始める様子がじわじわと怖さを誘います。途中の親猫が子猫を○○○すシーンも
怖かったですねぇ。また、このエピソードが最後に効いてくるところも巧い。
『釋迦狂い』は、ちょっと変わった設定で面白かったです。力士にアトラクションゲームに
アンドロイド。これは一体いつの話なんだ!?って感じのめちゃくちゃな設定で途中かなり
引いて読んでいたのですが。最後まで読むとああなるほど、と思えました。これも現実と
仮想現実の区別がわからなくなって行くというホラー定番のオチ。
『きも』は先述したように、途中の専門用語がぐだぐだと続く部分がだるかったです。タイトル
通り、きもい作品。得体の知れない不気味な呪いの細胞。うへぇ。キモッ。こんな気色悪いモノ
にわざわざ近づく研究員たちの気が知れないと思いました。理系の人ってこんな人が多いのか!?
(偏見)私だったら手袋越しでも絶対触りたくないよ・・・(絶句)。


それぞれ設定は面白かったのですが、何かあともう一味欲しいって感じの物足りなさを感じる
作品が多かった気がします。悪くはないのですが・・・。短編だからかも。長編も読んでみたい
と思わせる筆力はあると感じたので、次回作に期待したいですね。

表紙とかタイトルの感じはかなり好み。左上のがぼうがんこぞうかなぁ。顔のほとんどが黒目(!)。
この気味悪さがイイですねぇ(笑)。表題作は主人公と妻の関係とかも好きだったので、
シリーズ化して欲しいなぁ。妖怪シリーズみたいな感じで定着すれば、ポスト京極夏彦
なり得るかも!?