ミステリ読書録

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二階堂黎人/「智天使(ケルビム)の不思議」/光文社刊

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二階堂黎人さんの「智天使(ケルビム)の不思議」。

大学生の水野サトルは、以前ある殺人事件で懇意になった十姉妹刑事とのお酒の席で、十姉妹の
大先輩にして、警視庁捜査一課の伝説の名刑事と言われる元警部の間宮を紹介される。間宮は
数々の難事件を解決に導いたが、唯一現役時代に未解決のまま迷宮入りして心残りだった事件が
あるという。そこで、若いながらもいくつかの事件を解決し、名探偵っぷりを発揮したサトルに
その事件の推理をして欲しいというのだ。間宮の言うには、犯人が誰かはわかっていたが、事件
当時、その人物のアリバイは確固たるものであり、警察はその人物をアリバイを最後まで崩せ
なかったのだと言う。結局、事件は未解決のまま時効を迎えてしまった。この事件に興味を
惹かれたサトルは、早速事件を調べようと事件関係者がいる場所へと出掛けて行くが、そこで
更なる殺人事件と遭遇してしまう――サトルは、二重三重に張り巡らされた犯人の奸計に
気付くことが出来るのか――。書下ろし長編。


表紙怖いよ、表紙~~^^;;顔面中に流血しながら嗤ってるよ、このひと~~~(>_<)。
・・・と、読んでいる途中にふと表紙を見る度ぞぞっとしながら読んでました^^;

タイトルになんちゃらの不思議が入るので、基本的には学生サトルシリーズだと思って読んで
いたのですが、サトルが真相に気付くまでに長い年月がかかった為、ラストの謎解きは社会人
サトルが担っています。思いがけず両方と一辺に出会えて嬉しかったです。社会人サトル
シリーズの方が私はどっちかっていうと好きなんですよね~。性格ほとんど変わってないん
ですけど^^;由加里さんもちょっぴり出て来て嬉しかった。

海外もののとっつきにくい文章の後だったせいなのか、もともとのリーダビリティのせいなのか、
ものすごく読みやすく感じて、あっという間にページが進んで行きました。二階堂さんの文章って
こんなに読みやすかったっけ?と首を傾げるくらい。どっちかっていうと、東野さんの
文章読んでる感じ。しかも、内容も、完全に容疑者Xの献身を彷彿とさせるようなもので、
もしかして、二階堂さんは敢えてあの作品に真っ向から挑戦して来たのかな?と思ってしまった
(二階堂さんが出版界で起きたあの作品の騒動に加わっていたかどうかは知らないのですが)。
ヒロインの人物造形がまた、東野さんのファムファタルに対抗出来そうな典型的な悪女だし。
ヒロインの犯罪の協力者の献身的な態度も『X』とダブるし。当日のアリバイ工作の中に
映画の半券が入ってたし。いろんな点で、あの作品を彷彿とさせる内容でした。

構成も、予め犯人は明かされていて、サトルがアリバイ崩しに挑戦するという、倒叙形式。
伏線はかなりあからさまに張ってあるのですが、真相はそうした伏線が綺麗に繋がって、
思わぬ真実が明らかになります。といっても、綺麗に見抜くのは無理だったのですが、真相は
なんとなく想像していたものから大きく逸脱するものではなく、仰天ってところまでは
行かなかったのですが。でも、緻密に構成されていて、良く出来ていると思います。絶対
伏線の一つだと誰もがわかるであろう笠置シズ子『東京ブギウギ』の歌の伏線も、そう
繋がるのか~と思いました。そして、紅白歌合戦の思わぬ歴史に『へぇ~』でした(笑)。
この時代の紅白歌合戦を知っている人には懐かしく読める作品じゃないかな。紅白歌合戦
昔違う名前で放映されていたってのはミ○オネアかなんかのクイズ番組で聞いたことがあったと
思うのだけれど。紅白歌合戦にうるさい人ならトリック見破りやすいかも?(笑)

それにしても、終盤のヒロイン、天馬ルミ子のふてぶてしさには呆れました。この辺りは
白夜行』の雪穂を彷彿とさせるかな。雪穂もこのくらいの歳になったら、絶対こういう人間に
なってそうだなぁ。タイトルの『智天使』、智の部分は合っているけれど、天使っていうよりは
完全に悪魔。智悪魔だね。って、そんなのいないけど^^;可哀想なのは、彼女にひたすら
尽くして燃え尽きてしまった杉森でしょうね・・・。ルミ子って、一体彼のことを本当はどう
思っていたのでしょうか。なんだか、酷く虚しい気持ちに囚われました。なぜ、そこまで
出来るのかなぁ。ルミ子も、杉森も。
凡人の私には、理解不能でした。

嫌な話ではありましたが、ミステリとしては非常に楽しめました。面白かった。死体を泥炭地に
埋めると・・・っていうのも初めて知りました。へぇ。ほんとなのかな。って、別に実生活に
役立つ知識じゃないけど^^;
リアルタイムじゃないけど、『東京ブギウギ』の歌は知っているので、読んでる間はもちろん
頭の中に流れ続けてました(苦笑)。でも、作風と歌が全く合ってなかったですけどね・・・^^;
サトルの奇橋な所がほとんど出て来なかったのは残念だったかな。


冒頭に引用されている江戸川乱歩による倒叙探偵小説の定義】

――犯人をまず登場させ、綿密周到な用意のもとに罪を犯させ、そのすっかり読者に
知れている秘密を、探偵がいかにして解くかという興味(犯人の側から云えばいかにして
罪が発覚するかという興味)を主眼とする探偵小説――


まさしく、これはそんな小説です。