ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

本多孝好/「at Home」/角川書店刊

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本多孝好さんの「at Home」。

親子それぞれに特殊な職業につきながらも強い繋がりをもった家族、距離を置きながら同士のような
関係に置かれた義理の父娘、一度家庭を壊し人生を放棄しかけている男、妹のDVに勘づいてしまった兄……。そこは人が本当に帰るべき場所なのだろうか? ふぞろいで歪つな4つの家族とそこに
生きる人々。涙と冷静と波乱を存分にたたえた、本多ワールド最高到達点!2010年エンタ
テインメント小説、最高の収穫!(あらすじ抜粋)


本多さんの新刊。タイトルからして良さげだなーと思いましたが、期待通り、とっても良かった
です。『家族』をテーマにした中編が四作。うち一作『日曜日のヤドカリ』は、『Story Seller
Vol2』で既読。とても好きな作品でしたが、再読してもやっぱりいいなぁと思いました。四つの
家族、それぞれに形は全く違って、血が繋がっていない家族さえいるけれども、家族はやっぱり
家族。血で繋がっていなくても、心で繋がっている家族の絆は、血の繋がった家族よりも強い時
だってあるのだと教えてくれるような作品でした。どの作品も、本多さんの温かい目線が感じ
られて、読んだ後優しい気持ちになれました。



以下各作品の感想。

『at Home』
血の繋がりがなく、それぞれに詐欺や泥棒を働きながら共同生活を続ける家族。母親の結婚詐欺
相手を巡って事件が起きる。

人を騙して生計を立てているところには引っかかりを覚えたものの、家族それぞれのキャラが良く、
どの人物も憎めなかったです。そして、終盤、父さんの起こしたショッキングな出来事には息を
飲みました。まさか本多作品でそこまでの展開になるとは思わなかったので驚きました。でも、
その先、父さんがある場所から帰って来てからの展開がすごく好き。特に、『僕』の結婚相手には
ヤラレたなぁ。息子の為に罪を犯すことを厭わなかった父。犯罪を犯した父をひたすら待っていた
家族。血なんか繋がっていなくても、彼らはどんな家庭よりもも本当の心が繋がった『家族』だと
思う。

『日曜日のヤドカリ』
再婚相手の真澄の子供である弥生さんと強面の『俺』。ある日、真澄が高校の同窓会に出かけ、
二人きりになった義理の親子の前に一人の少年が現れる。

先述しましたが、再読。やっぱり好きだな、これ。小学五年生とは思えない達観した弥生さんと、
彼女に対してあくまでも敬語を貫き通す『俺』、二人のキャラが立っていて、二人のやり取りが
とても良い。到底大人と子供の会話とは思えない敬語の応酬なのだけど、それが妙に心地良い
というか。のんびり話す二人の牧歌的な感じが好き。お互いにお互いをきちんと『家族』だと
認めていて大事に思っていることが伝わって来るところが良かったですね。

リバイバル
借金返済の為に、偽の外人妻をもらうことになった中年男の『私』。女は妊娠していた・・・。

中年男と言葉が通じない外人の女が少しづつ心を通わせて行くところが良かったですね。女が
この後どうなるのかは気になりますが、ラストシーンの『私』と離婚した妻が交わした会話に
胸が温かくなりました。いつもと同じ玉子焼きがいつもより美味しく感じた理由は、二人には
きっともうわかっていますよね。紆余曲折あったけれど、ようやく心が通じ合えた瞬間だった
のでしょうね。

『共犯者たち』
他人に対して意地悪で自由奔放の妹。結婚して子供が出来てもそのままだった。そんな妹の四歳に
なる子どもを預かった。そこで『僕』は、甥の身体に虐待の後があることに気づいてしまった――。

幼い頃に家を出て消息不明になったどうしようもない父親が、ずっと会っていなかった娘を信じて
行動する姿に胸を打たれました。近くで妹を見ていた兄でさえ信じてあげなかったのに。その父親
の過激な行動を止めるでもなく、見守る母親もかっこ良かった。まぁ、近所にこういう犬おばさんが
いたら迷惑な存在なんでしょうけれど^^;でも、しょうもない父親に毎年一年に一度だけ律儀に
会いに行き、ご近所に迷惑をかける母の代わりにご近所に挨拶に行く『僕』も、すごく真っ当で
出来た人だと思う。収録作品中唯一本当に血の繋がった家族を描いた作品ですが、バラバラに
生活しているという意味ではやっぱり歪な家族の形と云えるでしょう。それでも、やっぱり
読み終えた後は『家族っていいな』と思える作品でした。無条件で相手を信じられることも、
相手の為に我が身を投げ打って行動出来ることも、その相手が家族だからこそ、なんですよね。




やっぱり、この方の感性好きだなぁ。最近家族との繋がりが薄いな、とか、家族とぎくしゃく
してるな、とか感じる方には是非読んで家族の大事さ、温かさを感じて欲しいですね。帰る家が
あるって、待っててくれる家族がいるって、本当に有り難くて素敵なことだと思う。もっともっと、
家族を大事にしたいと思える、良作揃いの作品集でした。オススメです。