ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

我孫子武丸/「眠り姫とバンパイア」/講談社刊

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我孫子武丸さんの「眠り姫とバンパイア」。

母とふたり暮らしの小学5年生・相原優希は、居眠りばかりしてしまうので、子供の頃から「眠り姫」
と呼ばれていた。居眠り癖もあり学校になじめない優希を心配した母はお姉さん代わりの家庭教師を
つけていたが、大好きだった美沙先生はアメリカへ留学することに。その代わりの新しい家庭教師・
荻野歩実に、優希は大切な秘密を打ち明ける。その秘密とは、父親が3年ぶりに会いに来てくれた、
というものだった。母とふたりで暮らしている理由を知らなかった歩実は、前任の美沙に事情を
聞いてみるのだが…。父は本当に戻ってきたのか?家族に秘められた謎とは(あらすじ抜粋)。
講談社ミステリーランドシリーズ。


ひさーしぶりに、ミステリーランドの続刊が刊行されました。それも、ついに我孫子さんの登場!
新本格系の作家で、書いてなかったのって我孫子さんだけだったんですね~。井上雅彦さんと
二冊同時刊行。井上さんの方はリクエストしてなかったから入荷するか不安だったのですが、
さっき検索したら無事入荷していたので予約しました。一人待ちだからすぐ回って来そう^^;
このレーベルの作品は好きな作家如何に関わらず、無条件で読むことにしているので。ちなみに、
以前このミステリーランドの全作品(記事の後に出た作品は入ってませんが)のベスト記事
書きました。ミステリーランドとは何ぞや?と思われた方はリンク先へどうぞ。

さて本題。タイトルから、ファンタジックな作品なのかな?と思いきや、なかなかにシビアな内容
でした。母子家庭の一人娘の元に家庭教師に行くことになった青年が、ナイーブな娘の奇妙な言動に
翻弄され、彼女の言葉の真意を探るお話。

真相には、小学五年生が背負うには重い事実が隠されていました。優希が父親をバンパイアだと
思った理由も、母親に父親の姿が見えなかった理由も、優希が『眠り姫』と言われる程、良く
居眠りしてしまう理由も、きちんと原因があって納得出来ました。多少強引かな、と思うところも
あったのですが。派手などんでん返しなどはありませんし、真相はある程度予想の範囲内では
あったものの、このレーベルの作品としては、十分に面白さの水準を満たしているのではないで
しょうか。父親のビジュアルは、脳内で映像を想像するとかなりシュールで、ぞくりとさせられ
ましたが・・・^^;
優希にとっては、父親と母親の間にある溝はとても深く、真実を知るのは辛いところもあった筈
ですが、最後は収まるところに収まり、彼女の願いが叶ってほっとしました。夫婦の間の溝を
埋めるのはかなり時間がかかりそうではありますし、いろいろ障害もあるでしょうが、親子三人
歩み寄っていけば大丈夫、でしょう。

探偵役を担った荻野のキャラがなかなか良かったですね。美沙と優希の直接の会話なんかも聞いて
みたかったけれど。ただ、結構バンパイアの謎で引っ張った割に、終盤で唐突に謎解きが始まるので、
ちょっと面食らうところも。その辺りは、もう少しページ数割いて、丁寧に書いて欲しかった感じ
はしました。荻野が一体どうやって真相にたどり着いたのかもよくわからなかったし。いきなり
名探偵化するからビックリしちゃいました^^;;児童書体裁なので文字も大きく読みやすい上に
ページ数も少なめなので、一時間ちょっともあれば読みきれてしまうかも。久しぶりのミステリー
ランドだし、我孫子作品だし、もうちょっと読み応えあっても良かったかな~。

でも、大人も子供の楽しめるという点では問題はないのではないかな。相変わらず装幀も可愛い
ですね。シリーズ全部並べたら壮観だろうな~。
レーベル発起人の宇山さんが亡くなって、レーベル自体も尻すぼみになった感じがしていたので、
久々に刊行されたこと自体が嬉しかったです。講談社から忘れられているんじゃないかと心配して
いたので^^;
でも、どうやら我孫子さん(作家)ご自身の問題だったようですね(何年も書く、書くとお茶を
濁していたらしい・・・寡作な我孫子さんらしい(苦笑))。

同時刊行の井上さんの作品も楽しみです。
ところで、恩田さんと京極さんの作品はまだだろうか・・・。