ミステリ読書録

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綾辻行人/「深泥丘奇談・続」/メディアファクトリー刊

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綾辻行人さんの「深泥丘奇談・続」。

日常と非日常、論理と非論理、人と人ならぬものたち…妖しき反世界の気配が読む者を幻惑し、
魅了する。恐ろしくも可笑しい可怪しくも神妙な破格の怪談絵巻、第二集(紹介文抜粋)。


深泥丘シリーズ(?)の続編が出ました。前作同様、怪奇と幻想が渾然となった、独特の深泥丘
ワールドは健在。ただ、発表場所が『幽』ではない作品も混じっているせいか、前作よりも少し
バラエティに富んだ作品集になっているような印象を受けました。深泥丘病院の医師や看護師たちの
怪しげな振る舞いや、すべてを見透かしているような主人公の奥さんの存在感も相変わらずでは
あるのですけれど。主人公を突発的に襲う目眩が、作品全体の酩酊感を誘うようなところも踏襲
してますし。生理的嫌悪を覚える気味の悪い生物や、恐怖感を煽る擬音、前作から引っ張っている
深泥丘に棲息しているという正体不明の『******』の存在、すべての要素がこの土地の
そこはかとない『怖さ』を増長させています。この当りの雰囲気作りはさすがに老練の手立てと
いう感じで感心してしまいます。ホラーというほど直接の怖さを感じる訳ではないのですが、
何か心の芯の部分が冷えるというか、背筋を何かに撫でられた時のぞくりと肌が粟立つ感覚
を残す読後感で読者を煙に巻く。深泥丘という都市どこを切り取っても『得体の知れなさ』
あるんですよね。この土地でなら、どんな不思議で不可解な事象が起こっても不思議ではないと
思わせてしまう。現実にこんなところがあったら絶対住みたくはないですが、物語としては、
この深泥丘の世界というのはとても魅力的。なんだか、たくさんの言われがありそうで、郷土史
なんかを調べると、怪しげな過去やら言い伝えやらが山ほど出て来そうです(苦笑)。もちろん、
現実には存在しない架空の都市なのですけれど。妖都・京都になら、ほんとに実在しそうですが
(苦笑)。

どのお話もそれぞれに印象的だったのですが、特に怖いと思ったのが、主人公夫婦とお向かいの
家に住むご夫婦とで行った『かに道楽』カニを食べに行く話。主人公が幼い頃に経験した生きた
ままカニを擂り潰すシーンも衝撃的でしたが、かに道楽で生きたコメコメガニをそのまま食べる
シーンにも怖気が・・・^^;;カニが上げる『みゅ、みゅみゅっ・・・』の音にもぞぞぞ。
うう。カニ食べられなくなりそう・・・(><)。
あと『深泥丘三地蔵』のお話もぞくっとしました。一つめ、二つめ、三つめの意味が・・・。
こんなお地蔵様が自分の住む街に点在してたら、そりゃ怖いですよ。しかも、そこに赤い血の
ような液体なんかがかかっていた日には・・・うぎゃ。絶対夜中には見たくないですね(ToT)。

でも、一番読んでて厭だったのは『夜蠢く』の黒く蠢く長い虫のアイツのくだりかも・・・。
もう、生理的に読むのがキツかったです。照明カバーの内側に入り込んだヤツを退治しようとする
主人公の行動は、私も違うモノを退治する時する経験とほぼ同じなので共感は出来たのですが・・・
その後で『落ちてきた』シーンに気絶しそうになりました(><)。主人公の幻覚だったとしても、
描写がリアル過ぎて、こっちが目眩しそうでした^^;;
ラストの『ラジオ塔』のラストの展開には目が点。なぜ、そんなものがーーー!?と面食らいました。
なぜ○○○○・・・。この、唐突でわけのわからないところが、このシリーズらしいのかな、とも
思いましたけどね。でも、二つの○○○○の違いが良くわからなかったです^^;

他にも、ホラー映画好きの綾辻さんらしい、ホラー映画のタイトルに見立てた殺人事件ものとか、
企画本に寄稿した、死体が50のパーツに切断されたバラバラ殺人事件ものとか、ミステリ色の強い
作品もちらほらと入っていて、本来のシリーズとは少し毛色が違った雰囲気でしたが、そちらは
そちらで楽しめました。


そして、そして、やっぱり今回も特筆すべきは、祖父江さんによる神がかり的装幀。もーう、どの
ページ繰ってもウットリ。挿画も美しいですし、深泥丘の妖しい世界観とピタリとはまっていて、
ほんとに素敵。ビジュアルでも楽しめる、こういう本はほんとに読んでいて嬉しくなっちゃいますね。


今回も、幻想と怪奇を織り交ぜた妖しい深泥丘ワールドに酔い痴れました。
あとがきによると、シリーズはまだ続くようなので、第三弾を心待ちにしていたいと思います。