ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田忠司/「ルナティック ガーデン」/祥伝社刊

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太田忠司さんの「ルナティック ガーデン」。

若き庭師エチカは月に向かった。
“エターナル・タッド”が終の住処に選んだのは月面だった。“傍観者の家(オンルッカー・
ハウス)”と名付けられた邸宅には、音楽家、小説家、投資家、大女優ら、曰くありげな老人たち
も集っていた。そして人類最初の“月の庭”を作るべく、地球からエチカが呼ばれたのだ。
 軌道エレベーターで任地に向かう途中駅での少女誘拐に始まり、オンルッカー・ハウスでも
幽霊騒ぎ、老小説家の身投げ未遂など不可解な事件が続く。さらに、苛酷な環境に立ち向かって
造園を進めるエチカには、“キテハイケナイ”と告げる悪夢や、世界環境機関WEOの妨害、
隕石騒動など、さまざまトラブルが降りかかった。
 やがて、不可思議なものごとの鍵を求め、“月の声”が聞こえるという“シェラの崖”を訪れた
エチカが、外宇宙由来の球体を持ち帰ったのち、ハウスを幻影の嵐が襲う。
そしてエチカは、老人たちとともに人生の真実を知ることとなった……(あらすじ抜粋)。


太田さんの最新作。著名な園芸家に弟子入りしたエチカが、師匠から頼まれ、ある人物の依頼の
もと、人類初の試みである月での庭作りに挑戦するSFミステリー。小難しいSFの設定や薀蓄が
出て来ることもなく、主人公のエチカが直面する謎めいた出来事をその時々で解決し、それに
関わる人々の心も解きほぐして行く日常の謎系ミステリーの色合いが強かったので、基本SFが
苦手(特に宇宙関係は×)の私でも、読みやすくて良かったです。最初はヤバいかなーと思った
ところもあったのですけどね^^;
月に庭を作る、という設定だけでもロマンティックでいいですよね。エチカが庭を作ることに
なったオンルッカー・ハウスの人々は、みんな一癖も二癖もあって、始めはとっつきにくい
感じがしたけど、エチカが彼らの心の憂いを取り除く度に印象が変わって行って、彼ら自身が
エチカに持つ印象も、悪いものから良いものになって行くところが好きでした。一つ一つの
謎自体には、さほど驚ける真相はなかったのですが^^;ミステリー部分よりは、月に住む
やっかいな人々と新参者のエチカの心の交流を描いた人間ドラマの方に重点を置いてる感じ
かな。
終盤の急展開にはちょっと驚きました。シュラの崖から持ち帰ったモノがあんな風に変化
するとは。突然サバイバルみたいな状態になったので面食らいました^^;読んでて、頭の中
では、日渡早紀の傑作漫画『僕の地球を守って』の月基地内で、歌を歌った木蓮のせいで
植物が大繁殖しちゃった場面を思い出しました(笑)。考えて見ると、月に庭を作るって時点で
設定似てますしね(笑)。

ただ、惜しいのはラストの収拾のつけ方。エチカがあれほど必死で月に庭を作ろうとして手を
尽くしていただけに、このラストはちょっと・・・読んだ人のほとんどが不満に思うんじゃ
ないのかなぁ。こんなにあっさり諦めちゃっていいの!?と思ってしまいました。ルナティック・
ガーデンとは別に、エチカはエチカだけの庭を作り遂げて欲しかったなぁ。一年後に再訪するかも
微妙な書き方だし。せめて、エチカ自身が『また来る』という強い意志表示をするような終わり方
なら納得出来たと思うんですけどね。
あと、終盤になって突如浮上してきた、エチカの楊さんへの想いに関しても、中途半端な扱いで
終わってるし。そういう展開は個人的には嬉しいけど、あんな意味深に出て来てそのまま終わっ
ちゃう位なら、全くなかった方が良かった気がするんだけど^^;せめてもうちょっといい方に
向かうことを仄めかすような描写があったら良かったのになぁ。

基本的には面白く読んだのですが、ラストがちょっと尻すぼみな印象は否めなかったです。
そこは残念。
一年後、再びエチカが月に行って庭作りを完遂させるお話でも書いてくれないかな。もちろん、
楊さんとどうなるかもはっきりさせて欲しい(笑)。
タッドがプルートーを使ってエチカを監視していた理由もいまいち良くわからなかったですしね。
タムラの存在も意味深に出て来た割に、最初の話だけしか出て来ないし(名前は最後に再登場
するんですけども)。ちょっと、消化不良な部分が多かった気がするなぁ。SFだから、その辺
あんまり突っ込んじゃダメなのかもしれないですけどね(苦笑)。