ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮部みゆき/「チヨ子」/光文社文庫刊

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宮部みゆきさんの「チヨ子」。

五年前に使われたきりであちこち古びてしまったピンクのウサギの着ぐるみ。大学生の「わたし」
がアルバイトでそれをかぶって中から外を覗くと、周囲の人はぬいぐるみやロボットに変わり―
(「チヨ子」)。表題作を含め、超常現象を題材にした珠玉のホラー&ファンタジー五編を収録
(紹介文抜粋)。


宮部さんの文庫新刊。ホラーのような、ファンタジーのような、ちょっと不思議な話ばかりを
集めた短編集。表題作だけは、ついこの間アンソロジーで読んで既読。ただ、再読ですが、収録
された5編の中では一番好きな作品でした。
短編で短いせいか、ちょっと全体的に宮部さんにしてはキレ味が足りないというか、物足りなさ
を感じました。面白くない訳ではないのですが、短編としての出来で云えば、さほど突出した
作品がある訳ではないかなぁ、と。オチがすっきりしないものもありましたし。やっぱり、宮部
さんってだけで期待も大きい分、ハードルが上がっちゃうせいかもしれません。5編の中で、
ずっと後まで覚えていられそうなのは、表題作くらいな気がします^^;二度読んだからって
訳ではなくて、設定自体が面白かったし、可愛らしいけれど、ちょっぴり怖いところもあって、
印象に残るお話だったので。


以下、各作品の感想。


『雪娘』
二十年前に殺された雪子の死の真相は、割合にミステリとしてはオーソドックスだったかな。
悪くはないけれど、もう一捻りくらいは欲しかったかも。犯人の動機が身勝手すぎて腹が立ち
ました。誰にでもある感情かもしれないけれど、それで殺された方はたまりませんね・・・。
犯人はこの先も自分の犯した罪に縛られて、幸せになれないままなのではないでしょうか。

『オモチャ』
これは、ちょっとオチがよくわからなかったんですよね。どういう意味なのか。ラストで、
商店街のお店がお店を閉めて行くのは、玩具屋のおじいさんの恨みなのかな。恨むなら、
おばあさんの血縁の人たちを恨むべきじゃないかって気もするんですけどねぇ。おじいさん
の人柄も、結局よくわからなかったし。でも、なんだか切なくなるお話でした。

『チヨ子』
不思議の足跡 日本ベストミステリー選集で既読。主人公がバイトの着ぐるみのうさぎを着て
他人を見ると、その人が昔大切にしていたぬいぐるみやオモチャの姿に見えるという、不思議な
お話。誰にでも、子供の頃に大事にしていたぬいぐるみやオモチャがありますよね。うちの
甥っ子は、動物園で買ったトラのパペットをいつも抱えていましたっけ。私は未だにたれぱんだ
の巨大ぬいぐるみが部屋にいますけれど(笑)。この作品は、宮部さんが所属してる大沢オフィス
の朗読会の為に書き下ろされたものだとか。宮部さん、うさぎの着ぐるみを着て朗読したのだ
そうです。可愛かっただろうな~。巻末にその時の写真が載ってますが、生で観てみたかった!

『いしまくら』
ミステリとしての出来はこれが一番かな。公園に出るという幽霊の噂の真相を探る娘と、それに
協力することになった編集者の父親が、娘がまとめたレポートがきっかけで意外な真相に
たどり着く、というお話。父と娘の関係が良かったですね。ラストは、娘を持つ父親ならきっと、
父親の複雑な心境に共感出来るんでしょうね(苦笑)。

『聖痕』
これは一番苦手な作品でした。普通にミステリ的な展開になると思って期待して読んでいたの
ですが、だんだんおかしな展開になって行って、ラストは神がかり的な怪しげな話になって
行ったので、かなり面くらいました。オチもなんだかよくわからなかったし。結局何が書き
たかったのか、よくわからなかったです。巻末のインタビューで宮部さんが危惧した通り、
『宮部さん、大丈夫?』って思ってしまいました・・・。


相変わらず読みやすいのは良かったのですが(ラストの『聖痕』だけはちょっと読みにくかった
ですが^^;)、それだけに全体的にちょっと薄味って感じだったかな。まぁ、でも、
宮部さんの新作が文庫で読めたというのは嬉しかった。今度は長編でお願いします(笑)。