ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森谷明子/「緑ヶ丘小学校大運動会」/双葉社刊

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森谷明子さんの「緑ケ丘小学校大運動会」。

「おれは、先輩の味方になりたい」今日はマサルにとって小学校最後の運動会。好きな子と同じ委員
になったし、リレーの選手にも選ばれた。だけど優勝杯の中に薬の空シートを見つけたことから、
運動会の色合いが一変する。そのシートは「殺人の証拠」かもしれないのだ。しかも犯人は、
憧れのあの先輩だなんて。「このままには、絶対しない」マサルの父親・真樹夫は、子どもたちの
間でドラッグが出回っているという情報を耳にする。携帯には差出人不明のいわくありげなメール
が送られてきた。昨夜は、ある子どもの母親が死んだ。小学校で今、いったい何が起きているのか―。
真樹夫は真相を探り始める。運動会の校庭で繰り広げられる小学生の「推理」と大人の「思惑」。
プログラムの進行とともに、ふたつは交わり、そして意想外の真実へとたどりつく。運動会の一日
はミステリーの最高の舞台(紹介文抜粋)。


森谷さんは作品によって食指が動くものとそうでないものと結構分かれるので、読んだり読まな
かったりの作家さんなのですが、これは新聞の広告で書評を見て是非読みたい!と思っていた
作品。運動会が行われている最中に事件が起きるという、設定だけでも面白そうじゃない
ですか。
うん、面白かったです。タイトル通り、主人公のマサルが通う緑ヶ丘小学校の運動会の一日を
描いたミステリー。目次が運動会のプログラムそのものになっていて、プログラムが進行して
行くのと同時に、事件の方も進んで行く。構成自体も面白かったですね。運動会で活躍する
子供たちの元気な姿とは裏腹に、一部の保護者の間ではある不穏なメールのやり取りがあり、
何やら曰くありげな動きが水面下で行われている模様。そんな中で、マサルは、ふとしたこと
から優勝杯の中に隠された空の薬シートを発見してしまい、親しい友人たちと共に、そのシートが
隠された理由を推理し、恐ろしい結論にたどり着く。殺人の証拠かもしれないそのシートの扱い
をめぐり、マサルは右往左往することに。マサルたちが、シートを巡ってあれこれといっぱしの
推理を巡らせ合う姿は、ちょっとした少年探偵団みたいで、なかなか楽しかったです。

呑気な運動会の裏で主婦たちの間で行われている事は、思ったよりも重いものでした。ちょっと
したお金稼ぎのつもりで、こんな風にこういうものに手を出す人間は案外いるのかも。そう思うと、
なんだか暗澹とした気持ちになってしまうのですが。特に子供たちにとっては、自分の母親が
そういう悪いことに手を染めていたと知った時に心に受けるショックは計り知れないでしょうから、
こんなことが現実では起こらないことを願うのみです。

事件の収拾のつけ方には、本当の黒幕が放置されたままなので、ちょっと不満が残りました。
さんざん名前が出て来た太田先輩も、一度くらいは実物を登場させて欲しかったなぁ。まぁ、
みんなの推理が勘違いの方向に行っていたのだから、登場させなくても何ら問題はないのですが^^;
あと、登場人物の数が多いので、誰が誰だか頭の中で整理するのがちょっと大変でした。事件の
真相も、もう少し人物関係をすっきりさせて欲しかった感じはする。ちょっと、終盤ごちゃごちゃ
した印象だったので。

でも、途中ぎくしゃくしてしまった、真樹夫とマサルの親子関係が、最後ではいい方向に向かい
そうなラストだったので、読後感は悪くなかったです。事件の方はモヤモヤが残った感じでは
ありましたけれど。

徒競走やら組体操やら紅白対抗リレーやら、自分の小学校時代(何年前?とか無粋な質問をする
輩には鉄槌が下るのだ)を思い出して、ちょっと懐かしい気持ちになりました。子供がいたら
きっともっと身近な題材に感じられるのかもしれないですけどね(まぁ、甥や姪の運動会には
ちょこちょこ行ってるので、それほど運動会が遠い存在って訳でもないのですが)。
それにしても、今の運動会って、こんなに自分の子供の写真を撮るのが大変なんでしょうか。
父兄と一緒にお昼ごはんも食べられないなんて、なんだか随分運動会のシステムも変化してる
んですねぇ。そういえば、私も姪っ子の運動会に行った時、姪っ子は自分の教室でみんなと
食べてたっけ。私が小学生の時は、観に来た家族たちと一緒にシートの上で食べたような記憶が
あるんだけどな。

軽く読めて、なかなか楽しい一冊でした。今時の運動会事情にも興味津々。ふむふむ、こんな
なのかー、と知られざる世界を覗いた気分になったのでした。