ミステリ読書録

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小島正樹/「龍の寺の晒し首」/南雲堂刊

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小島正樹さんの「龍の寺の晒し首」。

群馬県北部の寒村、首ノ原。村の名家神月家の長女、彩が結婚式の前日に首を切られて殺害され、
首は近くの寺に置かれていた。その後、彩の幼なじみ達が次々と殺害される連続殺人事件へ発展
していく。僻地の交番勤務を望みながら度重なる不運(?)にみまわれ、県警捜査一課の刑事と
なった浜中康平と彩の祖母、一乃から事件の解決を依頼された脱力系名探偵・海老原浩一の二人が
捜査を進めて行くが…(あらすじ抜粋)。


名探偵・海老原浩一シリーズ・・・らしい。この海老原に関しては私、すっかり存在を忘れて
いたのだけど、扼殺のロンドで初めて出会い、ついこの間読んだ密室ものだけを集めた
アンソロジー密室晩餐会にて再会していたのにもかかわらず、その時点ですっかり忘れて
いた為、「海老原って誰?」的な感想だったんですよね^^;ま、さすがに今回、あれ、この
キャラって・・・と思い出し、巻末の解説見て、『扼殺のロンド』でも出て来たキャラだった
ことを知ったという訳です。結構面白いキャラなのに、なんでこんなにすっかり忘れ去って
いたのか、自分でも疑問なんですけど^^;おちゃらけた性格で飄々とした雰囲気は、山口芳宏
の大冒険シリーズに出て来る真野原のキャラに似てるかな。まぁ、真野原より確実に性格は
悪そうな気もしますが^^;

内容はというと、もう、小島さんらしく、横溝風の超直球の本格ミステリで、今回もやりすぎな位の
めくるめくどんでん返しで大いに楽しめました。本格ガジェットてんこもりの設定からしてめちゃ
くちゃ私好みで、そうそう、こういうのが読みたかったのよーーー!とテンション上がりまくりで
読んでました(笑)。

不可思議な現象が海老原によって論理的に解明されて行くところは聞かされている浜中たち同様、
目からウロコの連続でした。ただ、言葉だけの説明だと頭に思い描き辛いものが多く、この手の
本格ミステリにはありがちのわかりにくさというのはありましたね。あと、ちょっとご都合主義的な
設定が見られたところもマイナスかな。例えば被害者の一人が、ある時期になると私服がいつも
白いセーターと同じメーカーのジーンズってところとか。ジーンズはまだいいとしても、年頃の
若い娘が白いセーターばっかり着るってところに首をかしげてしまいました。そこで、白いセーター
をばかりを着るきっかけとか意味があるのならばまだ納得できるのですが。その辺りには触れ
られていないので・・・。これが白いブラウスならまだ時代的に納得できる気もするんですが・・・。

龍跪院の鐘撞堂の龍が消えた理由にも目が点。そんな見間違いあるかなぁ、と多少首を傾げつつも、
なんとなく納得させられちゃったんですけどね。それを言ったら、生首があちこちで目撃された
真相にも驚きましたが^^;すごい偶然が重なった結果、ですよねぇ・・・。

殺人の真犯人に関しては、全くのノーマーク人物だったので、思わぬ伏兵の登場に面くらいました。
っていうか、存在感なさすぎて、何日か経ったら、絶対誰が真犯人だったか忘れちゃいそう^^;
後から最初の方読みなおすと、ちゃんと伏線が張ってあるのはわかりましたが。でも、絶対見落とす
と思うな、こんな部分・・・。
それよりも、諸悪の根源となった人物のインパクトが強すぎて^^;まぁ、この一番の悪人が
放置された結末じゃなくて、良かったです。最後の一芝居にはニヤリ、でしたね~。溜飲が
下がりました。ある人物の死にも大いにショックを受けていた所だったので、余計にすかっと
しました。

事件は非常に猟奇的で重いものでしたが、合間に何度か挟まれる浜中と一乃ばあ&海老原の
コミカルなやり取りが楽しくて、ほっと出来ました。一乃ばあのキャラがとっても好きでした。
海老原と二人で浜中をおちょくるところが笑えました。
刑事になりたくないのに、なぜかことあるごとに手柄を積んでしまい、刑事への道まっしぐらに
なってしまう浜中のキャラも面白かったです。いちいち地方の駐在所勤務での自分を妄想して
ニヤニヤするのが可笑しかった(笑)。上昇志向皆無という、刑事にしては、なかなか珍しい
タイプのキャラだと思います。まぁ、人から可愛がられる弟分って感じで、好感が持てたので、
また一乃ばあと共に登場させて欲しいですね。


こてこての本格ものにしては、読みやすかったのも良かった。被害者の女性たちの区別が
いまいちつかなかったところはちょっと残念でしたけど。
うん、でも、今年読んだミステリの中ではかなり上位に入るかも。横溝風の本格ミステリ好き
には是非お薦めしたい一作ですね。
そういえば、この方のデビュー作で評判の良い『十三回忌』まだ未読なんだよなぁ。それも海老原
シリーズらしいですし(時系列は本書の方が先みたいですが)、早く読まなくちゃ。