ミステリ読書録

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千早茜/「あやかし草子 みやこのおはなし」/徳間書店刊

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千早茜さんの「あやかし草子 みやこのおはなし」。

古き都の南、楼門の袂で男は笛を吹いていた。門は朽ち果て、誰も近づくものなどいなかった。
ある日、いつものように笛を吹いていると、黒い大きな影が木立の中に立っていた。鬼だ。だが男
は動じず、己を恐れない男に鬼はいつしか心を開き…(『鬼の笛』)。いにしえの都に伝わる
あやかしたちを泉鏡花文学賞作家が紡ぐ最新作品集(紹介文抜粋)。


千早さんの最新作。この方も、新人ながらに、なかなか精力的に作品を発表されてますね。本書
は、二作目の西洋童話をアレンジして書かれた『おとぎのかけら』の日本バージョンって感じでしょうか。
ただ、あちらは現代風にアレンジしたお話でしたが、今回は時代設定は昔のままなので、作品
全体の雰囲気は全く違います。作品自体の雰囲気は、デビュー作の『魚神』っぽいかな。
実は、読んでる時は完全な千早さんのオリジナルだと思ってたんですが、ネット検索してたら、
京都に古くから伝わる伝説をもとに書かれたものなのだそうです。どの作品にも鬼や妖怪といった
妖しのものたちが出て来て、独特の耽美な世界観を作り出しています。私はめちゃくちゃ好み
でしたね~。こういうの大好き。日本昔ばなし風っていうのかな。ホラーまでいかないけど、
ちょっぴりゾクッとしたお話ばかり。オチがなんとなくぼかされてる感じのものもあるので、
ちょっと消化不良に感じるひともいそうですが、私はどの話も千早さんならではの美しい
世界観が構築されていて、完成度の高さを感じました。
特に好きだったのは、『天つ姫』『機尋』かな。やっぱり仄かに、恋愛の匂いがするものが
良かったです。『機尋』の方は恋愛感情と捉えると穿ちすぎかもしれないですが・・・私は、
二人の関係にはちょっと艶っぽさを感じたんですよね~。このままだと単なるロリコン
なっちゃいますけど^^;まぁ、将来を見据えて、そうなんじゃないかな、と(読んで頂いたら
多分、この意味がわかって頂けると思います)。

装幀も、昔の和綴じ本を思わせる表紙や、京極さんが大好きな鳥山石燕の中扉イラストなど、
非常に凝っていて美しいです。書棚に飾っておきたい一冊ですね。


以下、各作品の感想。

『鬼の笛』
男の吹く笛の音色に魅せられて毎夜やって来る鬼。その鬼からもらった『女』は不完全で、100
日が経つと『心』を持つようになるという。しかし男は・・・。

女との末路は想像した通りでしたが、やっぱり切なかったです。笛の音に狂わされてしまった男の
悲劇が物悲しく語られます。ラスト、ついに笛の音と一体になれた男は、それで幸せになれたんで
しょうか・・・。

『ムジナ和尚』
街に降り、廃寺の和尚に化けて住み着いた古ムジナ。次第に人々から徳を買われ、慕われるように
なって行くが、どれだけ人々と触れ合っても涙を流す感情だけは解することが出来なかった。

古ムジナのキャラが面白い。寺に住み着いた当初は適当だったお経も、生真面目な性格が幸いしてか、
独学で学んで言えるようになっちゃうし。宴の席でも騒いだりお酒を飲んだりしないし無口だから
余計に村人に信用されるようになっちゃうし。獣なのに、妙に徳を積んじゃうところに意外性が
あって面白かったです。古ムジナの世話を勝手に始めた娘とのラストが切ない。古ムジナの最後も、
また。

『天つ姫』
天狗と出会った幼い姫。天狗と過ごす楽しい日々はある日終わりを告げ、姫は帝の后になった。
しかし、帝は姫に冷たく、残虐な性格だった・・・。

姫君と天狗の梁星との関係が好きでした。姫が帝の后になる前、天狗たちと遊ぶシーンが良かった
です。自らを犠牲にして姫君を助ける梁星は素敵でした。それだけに、二人のラストに胸が締め
つけられるような気持ちになりました。切ないなぁ。

『真向きの龍』
造るものには命が宿ると評判の彫り物の名人の男がいた。ある日、男は、旱魃で苦しむ村の長から、
雨をもたらす龍がいるという淵に行き、その龍神を彫って彫ってほしいと頼まれる。すると、そこで
蛇の女に出会い――。

粘着質な蛇女にぞぞぞ。こういう話はいかにも日本昔ばなし的って感じがしますね。こういう
龍神伝説が残ってる場所って、結構ありそうです。

『青竹に庵る』
盗人一味を抜けた吉弥は、追手に追われて窮していたところを、金色の観音様に助けられ、竹林の
中にある庵に連れて行かれた。しかし、その観音様の正体は、吉弥の母だった――。

竹林が出てくると、ついついモリミーを思い出してしまうのですが(苦笑)、こちらは至って
シリアス。竹林っていうのは、物語の舞台、特に妖しが出てくるようなお話になりやすい題材
なのかもしれないですね。まぁ、かぐや姫だって、妖しのものには違いないですもんね。結局、
吉弥の父親って誰だったんでしょうか・・・。

『機尋』
染屋の柳の元で育てられた紅。ある時、柳が山奥にこもる間に、都で名の知れた織屋の留造の
元へ届け物をしに行くことになった。しかし、そこで紅が見たものは――。

色鮮やかな織物の世界に、紅がなぜあそこまで憧れたのか、その理由を知って胸が痛みました。
どんなに色彩豊かな織物を見せられても、柳の元へ帰ることを選んだ紅の意志の強さがとても
好きでした。紅と柳、二人の関係になぜか胸がキュンとしてしまいました(何かが違う・・・?^^;)。



鬼太郎や京極さんの妖怪ものの世界が好きな人にはハマる世界じゃないかな~。千早さんの文章と、
妖しの世界の冷ややかさがぴたりとはまっているように思いました。装幀と内容も合っていて、
とても好みの一冊でした。

ところで、ひとつ気になったのは、カバー後ろに書かれている作品タイトルの並び順と、実際に
収録されている作品の並び順が微妙に違っているのは何故かということ。疑問に思って、初出
部分を見ていたら、どうやらカバー後ろに載っている方は、書かれた(発表された)順みたいですね。
単行本収録に当たって、作者が収録順を変えたということでしょう。確かに、『青竹~』が最後になる
よりは、『機尋』が最後の方が読後感は良さそうです。そこを変えたことで、良い余韻の残る
作品集になっていると思います。なかなか細部にまで拘って作らている作品だな、と思いました。