ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

薬丸岳/「ハードラック」/徳間書店刊

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薬丸岳さんの「ハードラック」。

人生をやり直したかったのだ。ネットカフェ難民相沢仁は、闇の提示板で募った仲間と軽井沢の
金持ちの屋敷に押し入った。だが物色中、仁は何者かに頭を殴られて昏倒。ようやく独り逃げた
彼は報道で、屋敷が全焼し、三人の他殺体が発見されたと知る。家人には危害を加えないはずが、
おれは仲間にはめられた。三人殺しでは死刑は確実。正体も知らぬ仲間を、仁は自力で見つけねば
ならなくなった…(あらすじ抜粋)。


乱歩賞作家薬丸岳さんの最新作。今まで、司法を題材に問題作を書き続けて来た薬丸さん
でしたが、今回はちょっと方向性を変えて来ました。仕事もなく、他人に騙され人生のどん底
突き落とされた男が、一発逆転をかけてネットで仲間を募り、ある富豪の家に強盗に入るも、
更なる裏切りに遭い、警察に追われる身となる・・・という、一人の男の転落人生を描いた
逃亡劇サスペンス・・・って感じかな。
お金がなくなると、人間こうも悪いことしか考えなくなるものなのかなぁ、と暗澹たる気持ちに
なりました。主人公相沢仁の転落人生は、ほとんどが本人の自業自得から引き起こされたもので、
他人から騙されてもあまり同情の余地はないな、と思いました。ただ、彼の荒んだ人生のきっかけ
を作った母親の再婚相手とその息子の言動には確かにムカつきましたし、その点に於いては同情の
気持ちも湧いたのですけれどね。母親がもう少し自分の息子の方をしっかり見てあげていたら、
こんな風にはならなかったのかもしれません。でも、それは単なる甘えた言い訳でしかなく、本人が
しっかりしていたら、どんな過去を持っていようとも、もっといい人生を送ることだって出来る
筈です。人から騙されたからって、腹いせに今度は自分が騙してやろうなんて安易に考える
ような人間だから、何をしても悪い結果にしかならないのでしょう。ネットカフェで出会った
芝田を容易に信用してしまうことからも、根は素直で悪い人間じゃないのだろうから、もう少し
出会う人々に恵まれていたら、彼の人生も変わっていたでしょう。運の悪い人間というのは、
とことん運が悪いものなのかも。ただ、今の就職難の時代を考えると、仁のようになってしまう
人間はいくらでもいるのかもしれません。そういう意味では、現代社会の暗部をリアルに克明に
描いた作品と云って差し支えないでしょう。その分、気が滅入るような嫌な話とも云えましたが。

リーダビリティは相変わらず抜群で、仁の逃亡劇がどうなるのかハラハラさせられたのは
間違いないのですが、ただ、問題はミステリーの核となっている、『仁をハメた人物は誰なのか』
という部分。途中から、伏線があからさますぎて、ある一人の人物以外に考えられなくなりました。
薬丸さんだし、まさかそのままじゃないだろう、あるいは、これもすべてがミスリードさせる為
の伏線なのかも、といろいろ穿ちながら読んでいたのですが・・・そのまんまでした^^;;
まさか、ここまでひねりがないとは・・・。これ、読んでる人のほとんどが犯人当てられるんじゃ
ないかな?犯人が警察網をくぐり抜けたトリックもすぐにわかっちゃいましたし。ミステリーと
しては、かなりの肩透かしを食らわされたって感じでした。いくらなんでも、伏線わかりやす
すぎるでしょー^^;ラストも、犯人の○○で終わるってところが、意外性なさすぎるし。もう
ちょっと、ミステリとしての盛り上がりが欲しかったなぁ。

普通の人間が、一日を境に犯罪者に変わってしまう過程や、そうならざるを得なくなってしまった
人間の心理描写なんかはさすがに読ませるな、と思いましたが。
ちょっと、ミステリーとしては不満の残る作品でありました。


ちなみに、タイトルの『ハードラック』というのは、『バッドラック=運の悪いやつ』よりも更に
最悪の運の悪いやつ、って意味だそうです。犯罪者組織にとっての『HL(ハードラック)』
『BL(バッドラック)』な人間っていうのは、組織にとって『引っかかりやすい、いいカモ』
って意味があるのだそうです。そんな烙印を押される人間にだけはなりたくないやね。