ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

松尾由美/「煙とサクランボ」/光文社刊

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松尾由美さんの「煙とサクランボ」。

兼業漫画家の立石晴奈がまだ幼かった頃、家族旅行中に放火にあい、実家が全焼した。燃えさかる
家の中から写真が一枚出てきたのだが、写っていたのは家族の誰も知らない女性だった。この出来事
は立石家にとって長年の謎になっている。馴染みのバーのバーテンダー・柳井にその話をすると、
常連の炭津は「名探偵」だから話してみては、という。晴奈は炭津に事件のあらましを語るのだが
―(紹介文抜粋)。


久々の松尾作品。あらすじを見て、個人的に気に入っていた『ハートブレイク・レストラン』
似た設定みたいなので、借りてみました。幽霊が謎を解くという部分は確かに共通してますが、
それ以外は幽霊自体の設定も全然違うので、全体の印象も全く違ってました。しかも、今回は
中年のおじさん幽霊。普通の幽霊の設定と違うのは、その人を認識していない他人であれば
普通にその姿が見えてしまうし、物に触ったりも出来てしまう点。かなり人間に近い形で現れ、
生活出来ているところが不自然に感じなくもなかったです。
主人公の炭津さんが馴染みのバーで静かに飲みつつ、知り合った女性と世間話に興じる前半
部分は良かったのですが、その女性と高尾山に行く辺りから、ちょっとこの展開はどうなんだろう、
と感じ始めました。あくまでも、炭津さんには彼女のことを恋愛の混ざらない感情で接して
いて欲しかった。そこの部分に微妙な感情を入れてしまったせいで、ダンディに思えていた
炭津さんの印象がちょっと崩れてしまいました。バーテンの柳井さんに変な対抗心を燃やしたり。
中年男性に恋愛感情を持たせるなと言う訳ではないのだけど、炭津さんのキャラに関しては、
そういう邪まな感情が似つかわしくない雰囲気があったので・・・。しかも、彼女の過去と
少なからぬ曰くがある訳ですし。ああいう過去を持っていながら、彼女をそういう目で見ると
いうのがなんだか解せなかったです。




以下、ネタバレ気味です。未読の方はご注意を。











ミステリの真相もねー、なんか、やるせないというか、うーん・・・。犯人の放火の動機がねぇ。
なんか、身勝手すぎて理解出来なかったです。完全に自分のエゴというか。無関係なのに
犯人の他人への復讐の為だけに巻き込まれた立石一家があまりにも気の毒です。
最後、言いたいことだけ話してあっさりいなくなっちゃうし。ラストも呆気なさすぎたかなぁ。
柳井さんと晴奈の今後がちょっぴり気になりますね。













『ハートブレイク~』みたいなほのぼの路線じゃなかったのが残念だったかな。あれよりは
落ち着いた大人の雰囲気でしょうか。バーが大まかな舞台になってますしね。バーテンの
柳井さんと炭津さんの関係は好きでした。長編じゃなくて、二人が訪れる客の話を聞いて、
その都度謎解きをするシリーズ短編みたいな形の方が設定が生きたんじゃないのかな。
で、最後にあの真相を持ってくれば、もっとミステリ的にも衝撃があったんじゃないかと。
バーで謎解きという設定自体はすごく好きなんですけどね。面白くなかった訳ではないのだけど、
全体的にちょっと残念なところの多い作品だったかな。
タイトルも、煙はともかく、サクランボの方はちょっと強引かなーと思いました^^;