ミステリ読書録

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永嶋恵美/「廃工場のティンカー・ベル」/講談社刊

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永嶋恵美さんの「廃工場のティンカー・ベル」。

廃工場、廃線、廃校……etc.人けなくうち捨てられた廃墟には、何かの気配が残っている。いつま
でも消えることなく、時間を経るほどにむしろそれは強く漂う。人生に疲れたら、うら寂しい場所に
行ってみよう。その何かが足下を照らし、背中を押してくれる。閉じこもりOL、家出少年、行き
づまった事業主──彼ら彼女らの今を劇的に変化させる6つの物語。心に響く短編集(紹介文抜粋)。


長嶋恵美さんの作品を読むのは本当に久しぶり。というか、ミステリ・フロンティアの一冊しか
読んだことないのですけど^^;以前に読んだ時結構気に入った作品だったので、その後の
作品もいつも気になってはいたのですが、なんとなく手に取る機会がないままに来てしまいました。
でも、これはなんとなくタイトルと表紙に惹かれて、書店で見かけた時から読みたいと思っていた
作品だったので、開架で見かけて借りてみました。
うん、なかなか良かった。廃工場、廃線、廃校、廃園・・・と、全ての話が廃墟を舞台にした
短篇集。それぞれのお話は独立しているものの、使われなくなった場所がテーマという所で、
どこか切なくてうら寂しい雰囲気が全体に漂っているところは共通してますね。寂しい廃墟に
やって来る人々はやっぱりそれぞれ心に傷を抱えているのだけれど、最後は前向きだったり、
心温まる結末で終わるので、読後感は良かったです。


以下、各作品の感想。

『廃工場のティンカー・ベル』
廃工場の視察に訪れた建築家が、理由ありの家出少女と出会うお話。冒頭の病院でのエピソードが、
最後に効いてくるところが良かったです。ヒナの母親の彼女への仕打ちには本当に腹が立ちました。
世の中こんな母親ばかりじゃないとは思うけど、確実にこういう母親がいるのも事実なんですよね
・・・無責任に子供を生む母親が一人でも減ってくれることを願うのみです。

廃線跡と眠る猫』
後半、猫のフタバのその後がわかるくだりは、さすがに偶然が過ぎるような印象もありましたが、
主人公の長年の心の重荷が取れて良かったな、と思いました。このあと、野島さんとはいい雰囲気
になったりするのかな。そうなる良いなぁ。

『廃校ラビリンス』
廃校に忍び込んだ少年と、ボランティアで廃校の警備をしている青年との会話が好きでした。
頑なな少年の心が青年との会話によって少しづつほぐれて行くところが良かったですね。少年の
事情を知って、何とかしてあげようと立ち上がる青年の行動力に感心しました。今時、こういう
熱い心を持った青年って少ない気がするなぁ。転校していった生徒も、その学校の卒業生の一人
だっていう考え方は目からウロコ。私は転校ってしたことないけど、やっぱり転校して行った
生徒って、あくまでもよその学校に行ってしまった人間であって、その学校の卒業生として
見たことはなかったので。学校に戻った少年の濡れ衣がちゃんと晴れるといいなぁと思いますね。

『廃園に薔薇の花咲く』
少女の自殺がどうなるのか、最後まではらはらしました。絵的には一番綺麗なお話かな。
使われなくなって廃園になった遊園地跡地が舞台で、少女二人が主人公。最後は、それぞれの
誤解が解けて良かったです。二人とも本音が言えなかっただけなんですね。女同士の友情って
難しい。でも、お互いに、これからはずっと親友でいられるんじゃないかな。

『廃村の放課後』
人がいなくなった廃村が舞台。好きな女性の連れ子と上手くコミュニケーションが取れずに
悩む男が主人公。子供の心情を推し量るのは難しいですよね。本当はとっくに心を開いて
いたのでしょうけど。今後は、本当の家族みたいに、仲良く暮らして行って欲しいです。

『廃道同窓会』
女も40半ばを過ぎると、いろんな悩みが出て来ますよね。どんなに絶望しても、人間、一度
死ぬ気になったら何でも出来るような気がするな。もちろん、現実はやっぱり厳しくて、そう
簡単に現状が打開出来るなんて生ぬるいことを思ってる訳じゃないけど。それでも、少し希望が
持てるラストでほっとしました。彼女たちの未来が少しでも明るくなるといいな。



まぁ、普通に考えると、使われなくなった廃墟に行くのって、ちょっと怖い感じもしますが、
秘密基地のような、ちょっぴり冒険めいたワクワク感も覚えるものかもしれませんね。
なかなか面白い着眼点の短篇集だな、と思いました。
厳しい現実をテーマにしながらも、それぞれ最後に救いが見えるところが良かったですね。