ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮部みゆき/「ソロモンの偽証 第二部 決意」「ソロモンの偽証 第三部 法廷」/新潮社刊

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宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証 第二部 決意 / 第三部 法廷」。

【第二部 決意】
騒動の渦中にいるくせに僕たちは何も知ろうといなかった。けど、彼女は起ちあがった。校舎を覆う
悪意を拭い去ろう。裁判でしか真実は見えてこない!彼女の覚悟は僕たちを揺さぶり、学校側の壁が
崩れ始めた…気がつけば、走り出していた。不安と圧力の中、教師を敵に回して―他校から名乗りを
上げた弁護人。その手捌きに僕たちは戦慄した。彼は史上最強の中学生か、それともダビデ使徒
―。開廷の迫る中で浮上した第三の影、そしてまたしても犠牲者が…僕たちはこの裁判を守れる
のか!?

【第三部 法廷】
事件の封印が次々と解かれていく。私たちは真実に一歩ずつ近づいているはずだ。けれど、何かが
おかしい。とんでもないところへ誘き寄せられているのではないか。もしかしたら、この裁判は
最初から全て、仕組まれていた―?一方、陪審員たちの間では、ある人物への不信感が募っていた。
そして、最終日。最後の証人を召喚した時、私たちの法廷の、骨組みそのものが瓦解した(あらすじ
抜粋)。



第二部と第三部の間に一冊違う本を読んでいるのですが、第二部の返却期限が迫って記事を
書けずに返してしまったので、二冊まとめて書いちゃいます。第一部と同じく、二部も三部も
700ページを軽く超える分厚さで、読んでいて腕がしびれる、しびれる^^;
ただ、さすが現代のストーリーテラー宮部みゆき。読みだしたら止まらない、ぐいぐい引きつけて
読者をひっぱる筆力は圧巻でした。第一部は正直、だらだら長くてやたらに時間かかっちゃった
のですが、第二部は集中して読む時間が取れたこともあり、2日か3日で読了。第三部の方は
実質5日程はかかりましたが、内容的には一番のめり込んで読めたかな。結末編でしたしね。

第一部の段階では、余計に思えるエピソードが次々出て来て、大本の事件がおそろかにされて
しまっている感じがして無駄に長い印象があり、正直あんまり好意的な読み方ができませんでした。
第二部でもその印象はさほど変わらなかったのですが、第三部を読み終えて、序盤から中盤に
かけてのひとつひとつのエピソードすべてにきちんと意味があったことがわかり、溜飲が下がり
ました。枝葉末節、枝葉の先のすべてに、結末に至るまでの伏線が隠されていたのです。一番
感心させられたのは、一巻の野田君の家族との問題の部分。彼があの時抱いた家族への負の感情と、
それを乗り越えたことで得られた強さが、最後の最後、ある人物を助ける為の勇気に繋がるシーン
にはガツンと心を打たれました。今回の出来事を通して、一番大きく成長を遂げたのが野田君
じゃないでしょうか。もちろん、みんながみんな、今回の経験を通してそれぞれに成長したとは
思うのですけれども。

簡単にストーリーを説明しておくと、一人の男子中学生がクリスマスの朝、学校で死体になって
発見されることから事件は始まります。彼の死について警察が出した結論は自殺。けれども、
ある一人の目撃者から、彼の死は学校の問題児三人組による殺人事件だと告げる告発状が
学校関係者の元に送られて来て、学校もマスコミも騒然となります。彼の死の真相はどこに
あるのか。第二部では、その死の真相を追求する為、一人の女生徒が学校内裁判を起こす
ことを思いつき、それを実行させるまでの紆余曲折が、第二部ではその裁判の内容がそれぞれ
描かれています。

裁判といっても、実際の裁判とは違い、被告人に有罪判決が出たとしても、何の法的罰則も
与えられることはないし、被告人が捕らえられることもありません。被告人を始め、検事も
弁護人も判事も廷吏も陪審員も、すべてが中学生で構成される裁判。それでも、この裁判に
関わったすべての学生たちは、真剣に、自分のすべてを賭けてこの裁判に挑みました。彼らの
真摯な姿勢が伝わって、こちらまで背筋を正したくなる気持ちがしました。

はっきりいえば、この裁判の被告人、大出俊次に下される判決は、ほとんどの読者が予想の
つくものだと思う。途中から、事実は誰の目にも明らかになって来るのだから。目撃者が出した
告発状の真偽も明らかだし。そういう意味では、裁判の展開の予想はつきやすい筈です。一巻の
冒頭に出て来た電話ボックスの男の子の正体も、大抵の人はピンと来てしまうと思うし。ただ、
この裁判の行く末には、その予想を遥かに超えるドラマが待ち受けています。藤野検事の最後の
証人が証言台に立ってからの展開は、誰にも予想がつかないんじゃないでしょうか。そして、
9人の陪審員たちが最終的に下した結論も。でも、終わってみれば、誰からも納得出来る、
一番最適な結論を出したことがわかります。みんながみんな、誰かのことを思いやって出した
結論。誰の目にも、彼らが下した判決が正しく映ると思う。それが真実なのかどうか本当の
ところは本人にしかわからないことだとしても。

重い事件だし、登場人物の多くはそれぞれに心に葛藤を抱えていて、読んでて息苦しく感じることも
多かったけれど、読み終えた後はとても清々しい気持ちになりました。

エピローグのある人物の現在の姿に微笑ましい気持ちにもなりましたし。何より、最後のセリフ
に嬉しさがこみ上げて来ました。濃密なひと夏を共に経験した仲間。それは一生消えない絆に
なったんじゃないのかな、と思えました。


いやー、ほんと長かったけど、最後まで読んで良かったです。二巻終わった時点でもちっとも
話が進んでないからどうなることかと思ったけれど。やっぱり、宮部さんはすごかった。
細かい伏線がきっちり最後に効いて来てましたからね。

まぁ、正直、中学生がこんなに裁判用語をすらすらしゃべれるもんかい、とか、首をかしげる部分が
ない訳じゃないけれど。それでも、中学生だからこそ成立した作品なんだろうな、と納得出来る
のも確かな訳で。そこらへん、宮部さんのうまいとこなんだろうな。

個人的には、廷吏のヤマシンがお気に入り。もちろん、神原弁護人と野田助手コンビも好きでした。
三宅樹理は、二巻まではほんとに嫌な子、としか思えなかったんだけど、彼女は彼女で被害者なんだ
ろうし、最後の最後、再主尋問で嘘を吐き通してある人物を守ろうとしたところには見直しちゃい
ました。彼女もまた、この裁判を通して大きく成長したひとりであることは間違いないでしょう。



長いから、第一部第二部でだれてやめちゃうひとがいたら、それはすごく勿体ないと思う。
三部作併せてこの作品は成立しているのだから。これから読まれるひとは、ぜひ最後まで読み
通して生徒たちの成長を見届けて頂きたいな、と思います。
なんかもっといろいろ書き足りない気もするけど、とにかく読み通して良かった、と思える
作品だったってことだけは断言しておきたいかな。なんか、ぐだぐだな感想ですみません^^;;