ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「鏡の花」/「政と源」

どうもこんばんは。
めっきり秋めいて来ましたね。みなさま、お風邪など引かれてませんでしょうか。

今回は二冊読了。読書の秋だというのに、捗ってませんねぇ・・・。最近また少し
忙しくなって来たので、ペースダウン気味です。予約本ラッシュも落ち着いてますしね。

では、一冊づつの感想を。


道尾秀介「鏡の花」(集英社
『光媒の花』と対になるような一冊。とはいっても、あちらとリンクがある訳ではないの
ですが。ただ、一部の話で白い蝶がキーワードとして出て来るところなんかは共通してますね。
全6話からなる連作集で、登場人物もほぼ共通しているのですが、それぞれのお話は独立
しています。というのも、すべての作品が他の作品のパラレルワールドのような設定になって
いるから。一作ごとに、作中の人物の誰かが亡くなっています。つまり、一作目で亡くなった
人物が二作目では生きていて、一作目で生きていた人物が二作目では亡くなっている、という
ような感じ。少し前に読んだ加納朋子さんの『はるひのの、はる』に似ているかも。
読んでいただければすぐに意味がわかると思うのですが、こうして文章で説明するのは
難しいなぁ^^;伝わりづらかったらすみません^^;;とにかく、メインに登場する
キャラクターたちが何人かいて、一章ごとに代わりばんこにその中の誰かが亡くなっている
ということです(全然説明になっていない?^^;)。どの話でも、残された人物は
亡くなった人物に対して悔いていることがあって、もしあの時ああしていれば・・・と
後悔するのです。そして、大事な人が亡くなって何年もしてから、初めて気付くことがある。
中には、その事実に気付かない方が良かった人もいましたが・・・。
それぞれの話で人間関係は繋がっているようで繋がっていないし、繋がっていないようで
繋がっていたりもする。あの場面であの人物が死ななければ、こういう未来が待っていた、
というような、パラレルワールドの世界。一章読み進めるごに、不可思議な世界観の謎は深まる
ばかり。とても不思議な小説です。でも、ちゃんと一章ごとに意味がある。それぞれが
似ているけれど同じではない世界のお話。最終話だけは、今までのお話で亡くなった人物が
すべて生きている設定になっています。ただ、違う人物が亡くなっていますが。全員が生きて
出会っていたら、こんな未来になるのだなぁと感慨深いものがありました。生きていれば嫌な
こともある。でも、誰かが死んでしまうよりも、生きて動いてケンカするほうがどれだけ幸せな
ことか。そういった、当たり前のことに気付かせてくれる作品でした。
今回も派手な謎解きはありませんが、各作品ごとに小さな謎が散りばめられていて、ちょっとした
ミステリ要素は必ず含まれています。叙情的な文章にもますます磨きがかかっているように
思いました。それぞれの章では苦い結末でも、最後まで読むと一条の光が見える。
道尾さんの技工力が凝縮された一作ではないでしょうか。
感想を言葉にするのがとても難しい作品です。でも良い作品なのは間違いないと思います。


三浦しをん「政と源」(集英社
しをんさん最新作。出版情報を入手しておらず、KORさんの記事で出たのを知り、慌てて
予約。一歩遅れていたら読むのが来年になっていたところでした^^;ありがとうございました。
道尾さんとは対照的に、こちらはコミカルな一作。主人公はなんと、73歳の老人二人!!
この老人二人がまた対照的な性格。語り手の国政は、長年の銀行勤めをリタイアし、生真面目で
頑固な性格が災いしたのか、数年前に妻子に出ていかれてしまった孤独な独居老人。かたや、
古くから伝わるつまみ簪という伝統芸能の職人で、禿頭なのに奇抜なカラーリングでおちゃらけ
性格の源二郎。孤独な国政に対して、最近源二郎は若い弟子を従えるようになって、楽しく
生活している。そうした源二郎の生活が国政は羨ましくて仕方がないのです。対照的な二人
ですが、赤ん坊の頃からの腐れ縁で、なんだかんだ言ってもお互いが大事な親友同士。悪口
言い合ってケンカしても、結局どちらかが折れて最後には仲直り。そんな状態が73年間続いて
いるのだから、すごい縁ですよねぇ。二人の関係がとっても良かったです。
妻にも娘にも相手にしてもらえない国政が可哀想で、お正月の場面とか、国政が娘の家に行く
場面とか、読んでてかなり腹が立ちました。そりゃ、国政が長年妻子にしてきた報いなのかも
しれませんけど・・・。自分の親が今ちょうど国政と同じような老境に差し掛かっているだけに、
娘の態度に余計に腹が立ってしまったのかもしれません。70過ぎの老人を何年もたった一人で生活
させて、心配にならないのだろうか、と。たまに電話くらいしても。だって、倒れてたりしたら
どうするのよ。まぁ、近くに源二郎がいるから大丈夫、くらいに思っていたのかもしれないですけど。
それに、せっかく国政がはるばる家までやって来たのに、娘のセリフが『用がないなら帰って』って!!
ひ、酷い。酷すぎるーーー(><)。その対応はないだろう、と思ってしまいました。妻も妻だし。
でも、仲人を妻に頼んだ時のエピソードは面白かった。毎日葉書で懇願!しかも、だんだん絵つきに
なったりしてグレードアップしていくし(笑)。国政の一生懸命さが伝わって来て、微笑ましく
なっちゃいました。それをきっかけに、奥さんが戻って来てくれたらもっと良かったのになぁ。
ちょっとお馬鹿な源二郎の弟子徹平君と、姉さん彼女のマミさんのキャラクターも良かったですね。
マミさんはこれから苦労しそうだけど、徹平くんはいい子だし、源二郎さんもついてるから、
きっと幸せになれるでしょう。
国政と源二郎の小気味よい掛け合いが楽しかったです。ほんと、いいコンビだなーと思いました。
70超えても分かり合える親友がいるなんて、本当に羨ましいことです。いつまでの仲良し
二人組でいて欲しいな。
隅田川を舟で行き来するとか、下町の雰囲気も良かったですね。舟が移動手段って、今でも
実際やってることなんでしょうかねぇ。
あと、つまみ簪、どんなものかわからなかったのでネットで写真見てみましたが、本当に美しい
ものなのですね。こういう伝統芸能は末永く残して欲しいと思います。徹平頑張れ。
読んでて有川浩さんの『三匹のおっさん』を思い出しましたね。あれはアラカン三人組だったけど。
それよりさらに10歳も年上の老人コンビを主人公にしちゃうとは、さすがしをんさん。
それでも十二分に楽しめました。また政と源に会える日が来るといいな。




今回は同じ集英社出版でも、対照的な二冊となりました。
どちらもオススメ作品です。