ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

どうもみなさまこんばんは。
5月もあっという間に後半ですね。これからじめじめした梅雨がやってくるかと思うと
ちょっと憂鬱になる今日このごろですが。

さて、今回の読了本は三冊。実は前回の『貘の檻』の記事を書いた時点ですでに二冊は
読了していたのですが、『貘~』の返却期限が迫っていたので慌てて一冊分だけ記事を
書いてUPしたという訳なのでした。記事を書く時間も限られていたので、書きたかった
ことの半分も書けなかったような・・・。なんか、もっといろいろ書きたかったことが
あったと思ったんだけどなぁ。ま、いつものことか。


では、今回も時間もないことだし、さっさと一冊づつご紹介~。

柚木麻子「本屋さんのダイアナ」(新潮社)
柚木さん最新作。タイトルだけでも絶対面白い!って予感があったので早く読みたくて
うずうずしてました。いやー、期待通り。めっちゃ面白かった。毎度のことながら、
柚木さんの作品ってページ数も少ないし読みやすいし面白いしであっという間に読み
終えてしまう。時間がなくて本が読めない時にはちょうどよい作家さんなのであります。
今回の主人公は本が大好きなその名もダイアナちゃん。ん?外国人?と思ったアナタ、
父親も母親も生粋の日本人から生まれた純粋な日本人の女の子です。そう、つまり、
親のエゴでトンデモナイ名前をつけられてしまったDQNネーム少女なのです。しかも、
しかもですよ、ダイアナちゃん、漢字があるのです。『大穴(ダイアナ)』という・・・。彼女の
母親曰く、競馬好きの父親と相談して『世界一ラッキーな女の子になって欲しい』と願って
つけたそうなんですが。それにしてもねぇ。ほんとに、子供の未来を考えたら絶対つけない名前
だと思うんですけどね・・・。百歩譲って、せめてカタカナでつけてあげればよかったのに・・・。
案の定、この名前のせいでダイアナは幼い頃から嫌な目に遭いまくります。そのせいで、
友だちもできないまま小学3年生に。
しかし、この3年生で彼女にとって運命の出会いがあります。同じクラスに、神埼彩子ちゃん
という、見るからに賢そうな美少女がいたのです。彼女はダイアナの名前も、ダイアナ自身も
受け入れてくれる親友となりました。この作品はダイアナ視点と彩子視点が交互に出て来て、
最終的に二人が22歳になるまでを描いています。ただ、二人は12歳の時にある出来事の
せいで仲違いをしてしまい、その後十年間再会することなくそれぞれの人生を歩むのですが。
お互いに頭の片隅では相手のことが気になって仕方がないのに、なぜか素直に再会出来ずに
過ごすのですよね。その辺りが読んでて非常にもどかしかったです。
何といっても、本が大好きなダイアナのキャラクターが最高です。キャバ嬢の母親ティアラ
源氏名みたいなもので、本名はもっと地味ですが^^;)のせいで幼い頃から金髪に脱色
された髪のせいで、見た目は派手ですが、性格は母親を反面教師にしたおかげで非常に地味
で真面目。幼い頃からの夢は『本屋さんになること』。読む本の幅も広く、本の知識
豊富で、本の話をしだすと止まらない彼女のキャラクターが大好きになりました。本好き
にとっては、こういう友だちが欲しい!と切実に思う少女なんじゃないでしょうか。ああ、
私だって小学生の頃にこういう友だちと出会いたかったよ!!
正反対の彩子のキャラも良かったですね。ダイアナよりも遥かに恵まれた環境に生まれた
彼女が、ダイアナのすべてに憧れるところが面白かったです。ただ、大学生になってからの
彼女らしからぬ振る舞いがとても残念でしたが。あの事件も。彼女にだけは、ああいうことが
起こって欲しくなかったな・・・。
ダイアナと仲違いした後十年も再会しなかったのも残念ではあったのですが、最後の最後、
また二人の人生が交わる日が来たことがとても嬉しかったです。これからたくさん積もる
話があるだろうし、また以前の親交が戻ったとしたら、今度は一生の友だちになれるのでは
ないかな、と思いました。
可愛らしくて、とっても素敵な作品でした。本好きさんには是非オススメしたい一冊です。


貫井徳郎「私に似た人」(朝日新聞出版)
貫井さん新作。ここ数作は正直がっかりした作品が続いていたのですが、今回は非常に
氏らしい重厚な社会派ミステリーで嬉しくなりました。ラスト一作で判明する驚きの事実にも
あっと言わされましたし。技巧的にも優れた一作じゃないでしょうか。
舞台は各地で小口テロが頻発する現代日本。社会に不満を持つ人物たちにより小口テロがあちら
こちらで行われ、人々の心には不安が押し寄せています。その小口テロの犯人たちの間には、一見
何の繋がりも見い出せません。けれども、実は裏で糸を引く人物が存在していたのです。
作品は、一章ごとに主人公が入れ替わり、10人の人物による群像小説になっています。
その軸になるのは小口テロですが、関わり方は人それぞれ。かつての恋人が小口テロによって
犠牲になったとか、ネットで小口テロを唆す側だとか唆される側だとか。年齢も性別もバラバラ
の10人が、それぞれに小口テロと関わりを持っています。警察は、それぞれの事件の背景
には、裏で糸を引いている<トベ>という人物がいることを突き止めます。彼らの繋がりは、
ネットによる裏サイトでした。警察は、<トベ>の正体を探るべく動き出しますが、なかなか
その尻尾が掴めない。世界に誇る日本警察の捜査は、サイバー世界ではまだまだ通用しない
ことがわかるのですね。一体<トベ>は誰なのか。<トベ>の正体に関しては、最後の最後
まで混乱させられました。いやー、まさかあの人物だとは。唖然としちゃいました。最終章で、
その人物が登場した時、あれ、この名前は前の作品に出て来たひとだよなぁ、とは思ったのです。
でも、いまいちピンと来なくて。最後まで読んで、あーー!と声を上げたくなりました^^;
そこに繋がるのかぁ!!と。これ、最後の一章読んだ人は、絶対ある章の最初の部分に戻りたく
なると思いますね。んで、そこに戻って読みなおしてみると、絶妙な書き方してるのがわかる。
最初に読んだ時点では、全く何の疑いもなく読んでた部分で、全く違う見方が出来ることに
気付く。うーーーん、やられました。久々に。確かに、その章だけちょっと異色な感じは
あるんですけどね。異色といえば、他にも異色な章もあるから、埋もれて気づけなかった・・・。
この作品読んだ直後だったから、AKBの襲撃事件にドキっとしちゃいました。あの犯人も
やっぱり、この作品で小口テロを起こすような人物と似たような境遇なのかな、とか。
無職だったり、職があっても稼ぎが少なかったり、社会的な弱者の立場の人間たちが今の
社会への不満をぶつける為に起こす小規模なテロ。弱い立場の彼らが、<トベ>によって
巧妙にテロへの意識を植え付けられて行く姿にぞっとしました。<トベ>が彼らを理詰めで
説得していく様は、ちょっと宗教がかっているような印象も。スマホタブレット端末が普及して、
ますますネット社会になって来ている現代なら、十分あり得そうな作品だな、とそら恐ろしく
なりました。
ここ最近の貫井作品の中では、非常に出来のいい力作なのではないでしょうか。ラスト一作の
落とし方もお見事。本物の<トベ>は最終的には警察に捕まるのでしょうかね。
テロというものの怖さ、無意味さを改めて考えさせられる一作でした。是非一読をお薦め
致します。


喜国雅彦「本棚探偵最後の挨拶」(双葉社
シリーズ第四弾。出来るなら、これ一冊だけで記事にしたかった・・・。でも、返却期限が
ギリギリで明日返さなきゃいけないから、今日書くしかないのが悲しい。しくしく。
もぉ、最初から最後まで面白すぎ。ほんと、このシリーズ最高。今回完結編らしいんですけど、
ほんとに、ほんとに終わってしまうの!?こんなに面白いのに!?嫌だー、嫌だー。もっと
続けて喜国さんっ。『~事件簿』絶対お願いしますっ。
取り上げたい箇所が多すぎて、どこから書けばいいのか困る。相変わらず、喜国さんの
本と古書蒐集への愛情と熱情には頭が下がる。私だって本が大好きだけど、ここに出て来る
古書愛好家たちとはおよそレベルが違いすぎて、はっきり言って異星人かと思ってしまうわ。
喜国さんのすごいところは、本の為なら本棚だって本自体だって手作りしちゃうところ。
今回一番大笑いしたのは、小学生の頃の夢を叶える為に、本棚の本に化けるところ。
これはねー、実際読んでもらわないと説明が非常に難しいんです。でも、喜国さんが自作した
本棚に横たわって、本に化けてる写真見たらもう。く、くだらなすぎて。お腹痛い。こんな
アホな夢を二時間で実現させちゃう喜国さんって、ほんと、何ていうかもう。最高です。
あとは、綾辻さんの『暗黒館殺人事件』の私家版作るところがすごい。ほんとに、すごい。
製本家になれるんじゃないか。っていうか、私も欲しい。いや、手に入れなくてもいいから、
実物見てみたいーーーー!!!んで、綾辻さんご本人には渡したんですかねぇ。先に作った方
を差し上げればいいのでは・・・と思った人は私だけではあるまい(多分、綾辻さんもこれ
読んでそう思った筈)。しかし、これもらったら、芸者遊びだって何だってさせてもらえると
思うな、多分。それだけの価値はある素晴らしい出来栄えですよね。
震災関連のパートでは、被災地へ送る本を選ぶ場面で、喜国さんの生真面目でやさしい心配り
に感動しました。喜国さんの本を手に取った被災者の方が喜んでいるといいな。
他にも、抱腹絶倒のエッセイの連続で、読んでる間中にやにやしっぱなし。あー、面白かった。
装幀もさすがの一言。ほんと、カッコイイ。題字も喜国さんご本人によるものですよね。素敵~。
図書館で借りてすいません。いつか私の本棚にも四冊並べたいと思います・・・(多分、
買うとしたら喜国さんが一番キライなあの黄色い看板のところだと思うけれど^^;;)。
ほんとにほんとに、『~事件簿』いつか出る日を心待ちにしてます。







今回は当たり作品ばかりで嬉しい。どの作品も自信を持ってお薦め致します。