ミステリ読書録

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麻耶雄嵩/「あぶない叔父さん」/新潮社刊

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麻耶雄嵩さんの「あぶない叔父さん」。

四方を山と海に囲まれ、因習が残る霧ヶ町で次々と発生する奇妙な殺人事件。その謎に挑む
高校生の俺は、寺の離れで何でも屋を営む人畜無害な叔父さんに相談する。毎度名推理を
働かせ、穏やかに真相を解き明かす叔父さんが最後に口にする「ありえない」犯人とは! 
本格ミステリ界の奇才が放つ抱腹と脱力の連作集(紹介文抜粋)。


麻耶さん最新作。霧深い地方の町に住む高校生、優斗が主人公。寺の次男坊で
特に将来の夢など持っていない優斗は、同じクラスで幼馴染の真紀と付き合っている。
ある日、優斗はお正月に真紀とお揃いで買ったうさぎのお守りを失くしていることに
気付く。気が強い真紀に知られる前に何とかしてお守りを見つけようと、優斗は
お守り探しに奔走する。そんな中、町有数の名家のお嬢様が冴えない国語教師と
駆け落ちしたというニュースが飛び込んで来た。しかし翌日、二人は駆け落ち
したのではなく殺されていたことが判明し――。

主人公の優斗は、何か相談事があると、寺の離れに住んでいる叔父さんを
訪ねます。この叔父さんは35歳にもなって定職にも就かず独身で、何でも屋
みたいな仕事をしてふらふらしています。そのため、優斗以外の家族のほとんど
から煙たがられているのですね。けれども、優斗だけは優しい性格のこの叔父さんの
ことが大好きで、事あるごとに叔父さんに会いに離れに通おうとする。
優斗が住む霧ケ町で殺人事件が起きた時も、彼はその度ごとに叔父さんの意見を
聞きに離れに訪れます。そして、その都度叔父さんから意外な真相を告げられる
のです。

面白かったのですが、正直登場人物に全然魅力を感じなかった為、どうも
いまいちハマりきれなかった感じでした。それに、ミステリとしてもいつもの
キレがなかったように思いますし。というか、かなり無理がある真相も
多かったような・・・。
何より、一番モヤモヤしたのは、優斗が優しい優しいと言って大好きな叔父さんが、
私にはちっとも優しい人間には思えなかったところです。むしろ自分勝手で
卑怯な人間にしか映らなかった。これ以上書くとネタバレになっちゃうので
詳しく述べることはさし控えますが・・・。
人柄自体は確かにソフトで穏やかで優しいのかもしれませんが・・・でも、
人として一番いけない類の人間じゃないでしょうか。
優斗が、それぞれの話で叔父さんから殺人の真相を聞いた上で、なぜ
ああいう態度が取れるのか、それが一番私には理解出来ませんでしたね。
叔父さんの反応見て、『かわいい』とか・・・。はい?何言ってんの!?
って感じです。この優斗というキャラも、ちょっと性格が異常なのかな、と
思わなくもなかったですね。平気で二股かけられる主人公ってのも珍しいですよね。
女性読者を真っ向から敵に回すような言動の数々。でも、麻耶さんって、
そういう、人から嫌われるタイプの人間を主人公に据えるのがほんとにお好き
なんですね。他人の嫌悪感を逆手に取って楽しんでいるような・・・。
かといって、女性キャラに好感が持てたかというと、全くそれもなかったですし。
優斗が付き合っている真紀なんて、彼氏の叔父さんを平気で殺人鬼扱いするし。
この娘もちょっとおかしい。更に、優斗の元カノ明美も、優斗と真紀が付き合って
いることを知っていて、平気で優斗にアプローチしてくる悪女タイプだし。
優斗の友だち陽介は、町内で殺人が起きると嬉々としてそれを話題にし、
推理ごっこをする不謹慎男だし。まともな人間が一人も出て来ない・・・。
でも、もちろん一番問題なのは、優斗の叔父さんでしょうが・・・。あんなこと
して、なんでのうのうとそのままの生活が続けられるんでしょうか。
私にはちょっと、叔父さんの心理状態が理解出来なかったですね。

ミステリとして一番ツッコミたくなったのは、5話目の『あかずの扉』
叔父さんが○のふりをしていたってところにズッコケました。いやいや、絶対
バレるって!!どんだけ湯けむりが立ってる温泉なんだよ・・・って思いました(苦笑)。
3話目の『最後の海』のトリックは、なんとなく見当がついてしまいましたね。
犯人は意外でしたが・・・だって、前の2話の流れを受けてたら、当然同じ
結末になると思うじゃないですか。この3話目だけがちょっと趣向を変えた
真相でしたね。この結末自体が、ラストで何かの伏線になっているのかなー
とも思ったのですが、特にそういうこともなく、ちょっと拍子抜けでしたが^^;
3話目がソレだったんで、続く3つの話も違う方向性に行くのかな、と思いきや、
そこはまた軌道修正して元の形に戻りました。
ラストでもうひとひねりあったらよかったかなーと思いましたね。短編集としての
まとまりに欠けるというか。もう一つパンチが欲しかった。すべてを明らかに
しないまま有耶無耶にしているのは、続編を想定しているからなのかな?
優斗の恋愛部分も結局消化不良なまま終わっちゃったし。ところで、最後の話で、
真紀が言った『あの日のこと、優斗が何をしたか~知ってるんだから』ってセリフ、
結局何のことを指していたんでしょうか。何が何だかわからずモヤモヤ。




※最後、ネタバレあります。未読の方はご注意を!












結局、3話目以外はすべてが叔父さんによる犯行だった訳で。
まぁ、故意にやった訳じゃなく、叔父さんに言わせれば事故だったのでしょうが。
でも、実は事故じゃなくて、すべてが叔父さんによる『故意の』犯行だった、
と考えられなくもないですよね。なんせ、真相は叔父さんしか知らない訳ですから。
もしかしたら、優しい顔をした叔父さんが、実は人殺しに快感を覚えるシリアルキラー
だった・・・ってことも、あり得るのかなーとちょっと穿った想像をしてしまいました。
優斗があれほど慕っていることもあるし、そうじゃないことを願いますが・・・。
真相は叔父さんの心のなかだけですね。
個人的には、叔父さんにはきちんと出頭してもらいたいと思っちゃいましたけどね。
いくら事故だとはいえ、人を殺しておいて(しかも何人も)、のうのうと同じ生活を
し続けられる神経がちょっと理解不能でした。