ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「本をめぐる物語 小説よ、永遠に」/「アンソロジー 捨てる」

みなさま、こんばんは。
今日は節分ですね。といっても、我が家は今日は相方がいないので、豆まき等
しませんでしたが^^;実家からもらった太巻きを一人さびしく食しました(笑)。

今回の読了本は二冊。
どちらもアンソロジーという珍しいラインナップになりました。


では、感想を。


「本をめぐる物語 小説よ、永遠に」(角川文庫)
タイトル通り、本にまつわる作品ばかりを集めたアンソロジー。この手の題材を
もって来られたら、読まない訳にはいきませんよねぇ(笑)。
はじめましての作家さんも何人か。なかなかどれも楽しめました。


神永学『真夜中の図書館』
髪ぼさぼさ男子が出て来て、アレ?と思ったらば、やっぱり!八雲の中学時代の
お話でした。久しぶりに八雲君に再会出来て嬉しかったです。ただ、話のオチは
早々に読めてしまいました(苦笑)。

加藤千恵『青と赤の物語』
物語を一切禁止された世界のお話。こういう設定、どこぞで読んだよなぁ、とは思いつつ、
青と赤が密かに図書館に潜り込み、地下に秘蔵されている本を貪り読むシーンには
ワクワクしました。ラストで明かされる青と赤の身の上の真相にも驚かされましたね。

島本理生『壊れた妹のためのトリック』
島本さんが、こういうミステリ仕立てのトリッキーな作品を書かれたことに一番
驚きました。ユヤタンの影響かしら(笑)。ラストの落とし方がいいですね。
そういうオチか!と思いました。黒いけれど、兄妹愛を感じる巧い落とし所に唸らされました。
短編として、完成度の高い一編だと思います。

椰月美智子『ゴールデンアスク』
はじめましての作家さん。主人公と西園寺先生の咬み合わない掛け合いが面白かったです。
やさぐれてる西園寺先生のキャラが良かったですね。

海猫沢めろん『ワールズ・エンド☓ブックエンド』
こちらもはじめまして。なかなかに奇抜な設定で、面白かったです。物語AI(ノベロイド)の
存在は、近い未来に実際実現しそうなリアリティがありましたね。でも、こういうプログラム
が実現したら、本当に小説家は商売上がったりでしょうねぇ。作家は楽になりそうだけどね(笑)。

佐藤友哉『ナオコ写本』
相変わらず変な話を書きますね、この人は。ナオコの正体は結局何だったのかわからないまま。
偽物ナオコのキャラは面白かったですけど。短編の出来としては、今回は奥さん(島本さん)
に軍配かな。

千早茜『あかがね色の本』
今回収録の中では、一番ストレートな作品かも。少年と少女の叶わなかった切ない恋模様に
胸がきゅんとしました。リヒト君は、今どうしているのかなぁ。ちゃんと、お互いに想いを
伝えていたらどうなっていたのかな。

藤谷治『新刊小説の滅亡』
これは、一番嫌な設定でした。世の中から、新刊小説がなくなるなんて!!今現在、新刊ばかり
追いかけている私には、世の終わりのように思えました。古い本を見なおそうという風潮は
良いことだとも思えるけれど、やっぱり私はいつでも新しい物語が読みたいです。この先、
こういう世の中が来ないことを願うのみです。


本にまつわる悲喜こもごも。いろんなタイプの物語があって、楽しめました。



「アンソロジー 捨てる」(文藝春秋
タイトル通り、『捨てる』をテーマにした、寄稿者全員が女流作家によるアンソロジー
近藤史恵さんのあとがきによると、寄稿作家さんたちはすべて『アミの会(仮)』という、
女性作家ばかりで結成された会の会員さんたちなのだとか。目的はアンソロジーを出すことで、
あとは集まってお茶(お酒)を飲んだり、ご飯を食べたりする集まりなのだそうです。
女流作家版の女子会みたいなものですかね(笑)。なんか楽しそう(笑)。
実力のある作家さんばかりなので、どれもひねりがあって面白かったです。


大崎梢『箱の中身は』
女の子が持っている箱の中身にはちょっと脱力。もっと何か、母親にとって都合の
悪いものが入っているのかなーと思ったので。でも、この年齢のこどもにとっては、
こういうものが宝物なんでしょうね。

松村比呂美『蜜腺』
ウツボカズラが家にあるって、やっぱりちょっと嫌だなぁ。姑の図々しさが嫌で嫌で
仕方なかったです。先物取引とか、やり始めるとドツボにはまるんでしょうねぇ・・・。
主人公が密かに実行した姑への復讐にぞぞーっとしました。特に栄養ドリンクの方が・・・ひー。
こんな母親の為に死んだ夫にも嫌気が指しました。

福田和代『捨ててもらっていいですか?』
元軍人だった祖父の遺品からとんでもないものが出て来て、遺族たちが右往左往する話。
故人が旧日本軍の人だと、実際こういうことってありそうな気がする。確かに、こんなモノが
出て来たら、遺族は扱いに困りますよねぇ。主人公の弟の軍事おたくの友人の言動に
ムカムカしました。自己中すぎ!それとは対照的に、主人公の恋人には好感が持てましたね。
彼の言動に対する主人公のニブさにはイライラしましたけどね(苦笑)。

篠田真由美『forget me not』
忘れな壺っていうものは、実際にあるものなのでしょうか。こんなものが芳名帳代わりだったら、
人がたくさん来る場所だと数が増えて置き場所に困りそうですけれど・・・。
最後、主人公が去った後の、老婦人の豹変っぷりに面食らわされました。得体の知れない人だ・・・。

光原百合『4つの掌編』
『捨てる』をテーマにした4つの掌編。冒頭の『戻る人形』が一番インパクトあったかな。
ぼろぼろになっても、しつこく主人公の元に戻って来る人形の執念に背筋が凍りつきました。
ラストの黒さにも。
他三編は、可もなく不可もなくといった感じだったかな。もうひとひねり欲しかった。

新津きよみ『お守り』
どんな時も守ってくれた祖母のお守りをめぐる物語。結局、白い砂の正体は何だったのか、
誰がすり替えたのか(本当にすり替わりはあったのか?)。謎がたくさん残されたまま。
これだけ効力があると、確かに手放し難くなるでしょうねぇ。でも、そういうのに依存
しきっていると、足元をすくわれることになる、という皮肉な結末でした。

永嶋恵美『ババ抜き』
これは短編としての完成度はピカイチじゃないでしょうか。女三人の思惑が交錯して、
非常に緊迫感のある展開にぞくぞくしました。お局と言われる年齢になった女が三人
寄ると、こんな陰険な関係になるんだなぁ・・・こ、怖い(><)。やっていることは
ジジ抜きという遊びなだけに、その裏に潜む悪意の黒さが際立っている。巧いな、と思いました。

近藤史恵『幸せのお手本』
平凡な幸せを手に入れるのって、実は一番大変なことなのじゃないだろうか。幸せに満ちて
いるように思えた主人公の祖父母の真実に暗澹たる気持ちになりました。主人公の夫の
典型的なDVのような言動には、腹が立って仕方なかったです。共働きでこういう態度だったら、
私だったらブチ切れるなぁ。プライド高い男って、こういう風になっちゃうんでしょうね。
ラストはやっぱりこうなったか、という感じでした。近藤さんらしい黒さですね。

柴田よしき『花子さんと、捨てられた白い花の冒険』
捨てられたパンジーから、こういう展開になるとは思いませんでした。なかなか巧い。
結婚当初の関係がずっと続くって難しいのかな。近藤さんの作品でも思ったけど。
せめて、主人公夫婦がずっと仲良くいられますように。この旦那さんなら大丈夫かな。


同じ『捨てる』というテーマでも、これだけ違った切り口の作品が書けるんだなーと
興味深かったです。バラエイティに富んでいて面白かった。



二つの短編集を合わせたベストを決めるとしたら、一位は長嶋さん、二位が柴田さん、
三位が島本さんかな。
アンソロジーは、いろんな作家さんの作品が一度に読めるからいいですね。