ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

池井戸潤/「下町ロケット2 ガウディ計画」/小学館刊

イメージ 1

池井戸潤さんの「下町ロケット2 ガウディ計画」。

ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年ーー。
大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。
量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA
出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。
「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。
しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である
佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、
佃製作所の新たな挑戦が始まった。

日本中に夢と希望と勇気をもたらし、直木賞も受賞した前作から5年。
遂に待望の続編登場!(紹介文抜粋)


70人待ちを乗り越えて、ようやっと回って来ました。ほんとは、ドラマを観る前に
なんとしてでも読みたかったんですけどね~^^;
結果、見事にドラマの役者さんのイメージそのままで読むことになりました(笑)。
まぁ、先にドラマを観ていたおかげで、人工弁の形とか想像しやすくて良かった面も
ありますけどね。
ドラマでなぜか一切説明がなかった『ガウディ計画』の意味もわかってすっきりしました。
やっぱり、ガウディはあのガウディだったのね。サクラダ(桜田)→サグラダ・ファミリア
→ガウディって訳ね。ドラマではいきなりガウディ計画って言葉が出て来て、目が点に
なったんですよね。ガウディってどこから来てるんだろ?って思って。最後まで謎のままでしたが。
しかし、ドラマの脚本で、なぜその部分を入れなかったのか非常に謎です。それ、一番
大事なとこだと思うんですけどー・・・。そこを端折る意味がわからなかったです。

ストーリーは前作とはガラリと変わって、佃製作所は医療機器の開発に乗り出します。
それは、『ガウディ』と呼ばれる心臓の人工弁で、その開発に成功すれば、多くの心臓病患者を
救うことが出来るというもの。人工弁の製造過程で、佃製作所が特許を持っているバルブの技術が
活かせるという訳です。佃製作所のメンバーたちは、この申し出に悩みながらも諾を下します。
ガウディは外国産の人工弁よりも遥かに小さく軽量な為、子どもの心臓病患者にも適している
からです。たくさんの子どもたちの夢を実現させる為、佃製作所は立ち上がる決意をするのです。
けれども、その道は険しく、彼らの行く手には様々な困難が待ち受けていました。
一方で、帝国重工に提供しているロケットエンジンのバルブも継続して開発しているものの、
そちらでは相手側から不本意な申し出があり、取引停止の危機が訪れます。ロケットエンジン
バルブ供給は佃製作所の要。それがなくなったら、倒産の危機さえ訪れるかもしれない。
次から次へとトラブルに見舞われる佃製作所に未来はあるのか――。

今回も、テンポ良いストーリー展開で、勧善懲悪な結末にスカッとしました。今回は、
佃製作所の夢と同時に、子どもたちの夢というテーマも重なっているので、感動もひとしお
でしたね。日本の医療機器認可の問題点(デバイスラグ問題)なども盛り込んで、非常に
読ませる作品になっていると思いました。佃製作所の社員たちの熱さに何度も胸が熱くなりました。
そして、池井戸作品らしく、今回も悪いやつがいっぱい出て来ましたねぇ。
サヤマ製作所の社長・椎名や、アジア医科大学の教授・貴船がその筆頭。自らの利益や
権力の為なら、平気で人の道を踏み外せると言わんばかりの原動にムカムカしっぱなしでした。
まぁ、悪いヤツが出てくれば出てくるほど、それに立ち向かい、やり込める佃の社員たちが
かっこよく見えるんですけどね(笑)。
でも、やり込められた後の椎名や貴船はちょっと哀れでした。貴船は、憑き物が落ちたように
なって、かえって良かったのでしょうけどもね。ドラマでは描かれた椎名社長のその後は
描かれませんでしたね。あれは、ドラマ版のボーナストラックだったんだろうな。

ドラマと違う点といえば、佃の娘のシーンが原作には一切なかったことですね。確か、前作では
娘との確執が描かれていたと思ったので、これはかなり意外だったのですが。母親も出て
来なかったですし。
他にも、ちょこちょことドラマとは違う部分があったように思います。原作ではさらっと
描かれている部分が、ドラマではかなり大げさに脚色されていたり。ドラマでは説明不足の
部分が、原作では細かく説明があってわかりやすかったり。それぞれ、一長一短があって、
どちらもそれぞれに良さがあると思います。大抵、ドラマは原作を超えられない、というのが
ほとんどだと思うけれど、ドラマから観たせいか、個人的には、ドラマの方がよりストーリーが
ドラマティックで感動があったかも。
原作を先に読んでいたら、また違った感想だったかもしれませんけどね。

何にせよ、とても面白くて一気読みでした。今回も、夢を持って仕事をすることの大切さを
教えてもらった気がします。佃製作所の社員たちは、本当にみんなが熱い心を持っていて素敵ですね。
今回佃を裏切り、サヤマ製作所に再就職した中里が、最後に下した決断にも、胸を打たれました。
彼は、自分のしたことをちゃんと認めて、その上で佃に戻るのではなく、サヤマの再建の道を
選んだ。彼のしたことにはムカムカしたけれど、最後に選んだ道で彼への印象が変わりました。
基本はきっと、責任感の強い人間だったのでしょうね。ただ少し、人より上昇志向が強かった
というだけで。佃社長の懐の深さにも脱帽したなぁ。こういう社長がいれば、社員はみんな
信じてついて行けるって思えるだろうな。ほんと、佃製作所はいい会社だなぁ、としみじみ
思わされました。また、佃のみんなに会える日が来るといいな。