ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

万城目学「バベル九朔」/柚木麻子「奥様はクレイジーフルーツ」

こんばんは。
もう六月ですね。今年ももう少しで半年が経つのかぁ。早っ。
梅雨も憂鬱だけど、そのあとにくる夏の暑さも嫌だなぁ・・・。


今回は二冊読了です。


万城目学「バベル九朔」(角川書店
万城目さんの最新作。うーむ。なんとも荒唐無稽としか言いようのないお話でしたねぇ。
作家志望の俺は、仕事を辞め、祖父が建てた雑居ビル『バベル九朔』の管理人を
している。作家としての芽は出ないが、細々と書き続けて来た長編が完成し、あとは
タイトルをつけて新人賞に応募するだけになっていた。しかし、そんな俺の前に、
カラスのように黒づくめの女が現れ、奇妙な出来事が立て続けに起こる。そして、
俺がある一枚の絵に触れた瞬間、世界は反転した――。
主人公が、作家の夢を追いかけて、小説を書く傍ら、雑居ビル『バベル九朔』の管理人
として細々とした仕事をこなしていく前半の辺りまでは面白く読んでいたのだけど、
祖父が作り上げた『バベル』の世界に行ってからの展開は、何が何やらって感じで、
ついて行くのがちょっと大変でした。
面白くなかった訳ではないのだけど、ちょっと設定が奇抜過ぎたのか、理解
出来ない部分が多かったというか。
今回は、キャラ設定の部分でも、ちょっとキレがなかった感じ。どのキャラクターも、
ちょっと個性が足りないというか。重要なキャラであるカラス女も、得体の知れない
不気味さがあって、好感持てなかったし。
バベル九朔の主みたいな大ネズミ『ミッキー』だって、もうちょっとストーリーに
絡んでくるのかと思ったら、あっさり殺されちゃうし。後半復活するのかな、と
思いきや、不発だったし。何だかなぁって感じ。
風呂敷を広げすぎて、たたみきれずに終わっちゃったような肩透かし感。
やっぱり、祖父が作ったバベルの設定が中途半端だったのが敗因かなぁ。
無駄を糧にして育って行くって。大九朔がやりたかったことが、いまいち理解
出来なかったです。
万城目さんが作り出す奇想天外な世界は大好きなのだけど、今回はちょっと
受け入れ難かったです。せめてもう少しコメディ色があったら、もうちょっと
評価も変わっていたかもしれませんが、全体的に暗いトーンが最後まで続いていて、
ラストも救いがあるとは言いがたかったので。万城目さんが、こういうラストを持って来るとは
思わず、ちょっと戸惑いました。そういえば、前作の風太郎の話も救いがなかったな。
最近は、そういう暗い終わり方を好むようになったのだろうか。
個人的には、万城目さんはもっとエンタメ色を強くして、アホっぽいお話で
笑わせて欲しいです。変にメッセージ性とか、社会性とか入れないで、もっと
単純明快なお話が読みたいです。
でも、作家10年の節目としてこういうお話を書いたということは、作家として
もっとステップアップしたい、という意思の現れなのかも。今後どういう作風になって
行くのかも、注目したいですね。


柚木麻子「奥様はクレイジーフルーツ」(文藝春秋
楽しみにしていた柚木さんの新刊。なんというか、なかなかに切実な夫婦の問題が
赤裸々に描かれていて、いろいろと考えさせられるお話でした。
共感出来るところも多いけれど、出来ない部分もありました。
ちょっと感想が書きにくいのだけど・・・テーマはセックスレス夫婦の内情、というやつ。
奥様の初美は、三十代のジュエリーデザイナー。愛する旦那さまは、女性誌の編集長。
お互いに愛しあう仲良し夫婦だけど、セックスに関してだけは意見が合わない。
性に淡白な夫は、ある時期から全く初美を性の対象にしなくなったのだ。
一方の初美は、セックスレスの日常に不満ばかりを募らせ、日々悶々としている。
大学のゼミの同級生、義弟、同じマンションの向かいの老夫婦の孫の浪人生・・・
出会う男をすべて不倫の対象として見てしまう――この状況を変えるには、夫との
セックスレスをなんとかするしかない・・・。
テーマがテーマなだけに、ちょっと身構えてしまうかもしれませんが、
からっとした筆致で書かれているので、ちっともエロい感じはないです。
夫婦であれば、当然抱えるであろう悩みが描かれている訳で。官能的な部分を、それぞれに
いろんな果物になぞらえているところが非常に上手い。果物特有の、うっとりするような
甘さや、ねっとりとした果肉や水分を含んだ弾けるような瑞々しさは、官能的な表現にぴたりと
はまるように思いました。
夫が相手にしてくれないから不倫に走る、という初美の気持ちは理解出来なくはないけど、
共感は出来なかったですね。ただ、彼女の憎めないところは、実行寸前まで気持ちが
行っているのに、最終的には実行しないというところ。不倫している友人には、
その後が面倒だから、みたいな説明をしていたけど、結局は夫への気持ちが勝って
しまうからじゃないのかな。
彼女が、夫をその気にさせようとしてあの手この手で頑張るところが健気でしたね。
ただ、終盤は、あらゆる努力が無駄になって、初美自身、その気がなくなってしまう。
性を追いかける初美のエネルギッシュなところがなくなってしまったのが悲しかったです。
あんなに必死な訴えをはねのける旦那に憎らしい気持ちになりました。
基本的には、初美の夫は奥さん思いのすばらしい男性なのですけどね。二人で温泉旅館に
行った時の、初美にパンツを履かせてあげた時のエピソードにはびっくり。なかなか、
ここまでやってくれる旦那さんはいないと思うなぁ。でも、一番大事な、妻の気持ちを
理解しようとしないところは、何度もイラっとさせられましたけどね。
でも、最後は少し彼らの関係が改善されそうでほっとしました。まだまだ夫婦の問題は
残っていると思うけど、この二人なら乗り越えて行けるだろうな、と思えました。
柚木さんは、何気ない日常の、ちょっとした心理描写が本当にお上手。ドキッとするような
表現もたくさんありましたし。
直木賞を獲られる日も近いのではないかな~。