ミステリ読書録

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鳥飼否宇「ブッポウソウは忘れない 翼の謎解きフィールドノート」/小林由香「ジャッジメント」

どうもこんばんは。あっついですねぇ。もう9月に入ったのに・・・何なんだ^^;
台風は続々とやってくるし。今年はなんか、例年以上に異常気象のような気がしますね。


今回も二冊。今日読み終えたのも入れて、あと二冊あるけど。それはまた次回。


鳥飼否宇ブッポウソウは忘れない 翼の謎解きフィールドノート」(ポプラ社
久々の鳥飼さん。最近新刊出していたのかな?草食系ユーモアミステリという内容紹介を
見て、面白そうだから借りてみました。
大学生の翼は、鳥類学の第一人者・宝満教授の研究室で野鳥の研究をしている。同じ
宝満研所属で一年先輩の室見春香に片想い中だ。野鳥の研究を続ける傍ら、春香との
距離を縮めようと鋭意努力中。そんな翼の周りで、次々と鳥にまつわる不思議な事件が
起きる。オオルリの巣に托卵されたジュウイチのヒナが消えた謎、同級生のみやこが
翼の書いたメモでかんしゃくを起こした理由、大学で保護したみみずくの世話をしていた
先輩の怪我の真相、ヨウムを研究している助教の九千部さんの首を締めたのは誰か――
そして、翼の告白を保留にしたまま姿を消した春香の真意とは。
基本的には日常の謎系で、ほのぼのとした作風。ミステリ的に小粒な印象は否めま
せんが、鳥の生態を上手く取り入れて、なかなか風変わりで楽しいミステリに
なっていると思います。主人公翼の想い人・春香が姿を消した理由がわかるラスト
には、思いがけない感動が。実は、告白の返事を有耶無耶にしたまま翼の前から姿を
消し、メールで曖昧な態度を取り続ける春香には、正直いい印象はありませんでした。
ただ、何かあるんじゃないかとは思ってましたけど・・・ああいうことだったとは。
いくつもヒントは提示されていたのに、いくらでも推理出来た筈なのに・・・なぜか、
そういう理由を思いつけなかったんですよねぇ。髪型の写メが来た時に、ピンと来ても
良かったのになぁ。アホだなー、自分・・・。でも、春香が最初の印象通りの人柄だと
わかって嬉しかったです。翼にだけは、本当のことを言えなかったのだろうなぁ。
翼自身は、自分にだけは打ち明けて欲しかったところでしょうけども。
鳥類の知られざる生態も知れて、なかなか勉強にもなりました。鳥飼さんらしい
題材って感じ。確か、こっち系が専門だったんじゃないかな?
草食系ミステリというのは言い得て妙といった所でしょうか。
個人的には、鳥類ってそんなに好きではないのだけど。小鳥やフクロウなんかは
可愛いと思うのだけど、鳩と烏とかダメ^^;糞害とかもやだし。臭いがねー・・・。
でも、第二話で出て来たサンコウチョウの求愛行動の生態とかすごく興味深かった。
鳥も種類によって千差万別なんですねぇ。
それにしても、鳥類研究って、四季を通して、研究対象の鳥を観察しなきゃ
いけなかったりして、根気がいる分野だなーと思わされました。研究ってみんな
そういうものかもしれないですけどもね。
シリーズ化して、もっといろんな鳥を取り上げて欲しいなぁ。面白い生態の鳥が、
いくらでもいそうですもん。翼君と春香のその後も知りたいですしね。


小林由香「ジャッジメント」(双葉社
新聞広告で大々的に宣伝されていて、話題になっているみたいだったので予約してみました。
うん、話題になるのも頷ける内容と出来だと思います。すごく考えさせられる作品だと
思います。特に、凶悪犯罪が増えた現代にとっては、近い将来実現してもおかしくない、と思わせる
内容ではありました。いや、倫理的には、絶対しないとは思うけどさ。でも、私はこういう法律、
あってもいいんじゃないかって思ってしまう。理不尽過ぎる犯罪や法律ばかりだからさ・・・。
特に、少年法には、常々改変の余地あり、と思っていたりするので。
凶悪犯罪が増える一方の日本で、『復讐法』という新しい法律が成立することになった。
復讐法とは、犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として
執行出来る法律のことで、この法の適用が裁判によって認められた場合、被害者、または
それに準ずる者は、旧来の法に基づく判決か、復讐法かを選択することが出来る。ただし、
復讐法を選んだ場合は、選択した者が自らの手で刑を執行しなければならない、というもの。
主人公は、復讐法を選んだ応報執行者を監督する応報監察官の鳥谷文乃。刑が執行
されるまで執行者を監察・監督する。
いろんなタイプの復讐ケースを取り上げた、連作短編集です。それぞれに、復讐法を
選んだ執行者(被害者遺族)の刑を執行することに対する迷いや逡巡、それを上回る程の
加害者への憎悪といった様々な感情を上手く描いていると思います。いろんなケースを
取り上げているので、それぞれに考えさせられるものがありましたね。
それと同時に、応報監察官としての文乃の、この仕事に対する心の迷いというものも
描かれています。監察官として、多くの執行者を監督し、その人々の苦悩や苦しみを
横で見て来ているからこそ、常につきまとう、復讐法に対する複雑な思い。刑を執行
したからといって、被害者遺族は救われるのか。更なる苦悩に苛まれるだけではないのか。
悩む文乃が、最後に下した決断は、私には意外でした。ある人物を守る為にしたことが
きっかけとはいえ、そういう道を選ぶとは思わなかったので・・・。でも、文乃に
とっては、こういう道を選んだ方が、幸せにはなれるのかも・・・。ただ、その道を
選んでまで彼女が守りたかったものが結局守れなかったのが、悲しかったです。
一番読むのがキツかったのは、一話目の『サイレン』。残虐な殺され方をした少年の
父親が執行者。息子と同じように、四日をかけて刑を執行して行くのですが。少年が
やられたように、首謀者の少年を痛めつけて行く様子が、読んでいてしんどかったです。
でも、何より、父親自身が辛そうだったのが苦しかった。被害者と同じ目に遭わせて
殺したからといって、被害者遺族が幸せになれるわけではないのです。復讐の道を
選んでも、苦悩と苦痛の連続でしかないというのが、この作品でよくわかりました。
それにしても、加害者の母親の言動は酷すぎた。自分の息子がしたことを、もっと
理解すべきなのに。こんな母親が育てたから、あんなモンスターが出来たのでしょう。
ラスト、復讐の連鎖という結末に虚しい気持ちだけが残りました。
表題作となっているラストのジャッジメントも衝撃的な結末。完成度としては、
これがベストかも。ただし、執行者自体にリアリティはないと思う。さすがに、
この年令の人物を執行者として認めてしまうのは無理があるのではないかと。
ただ、執行者の真の狙いがわかった時、その思いに胸が張り裂けそうになりました。
こんな親に育てられた子供が可哀想過ぎる。児童虐待育児放棄で殺されてしまう子供の
ニュースを目にする度、言われようのない怒りがこみ上げて来るのだけれど。
こんな扱いをするくらいなら、なぜ産んだのか、と。身勝手な被告人たちに、
憤りしか覚えなかったです。
三話目の『アンカー』が、一番復讐法の適用ケースとして相応しいのかもしれない。
連続無差別殺傷事件。被害者遺族たちが復讐法を選ばなければ、心神喪失の為不起訴。
つまり、精神鑑定で無罪ってことです。何の罪もない被害者たちが無残に殺された
というのに、無罪判決。被害者遺族として、これ程やりきれない事件はないだろうと
思う。世間の多くの人々が、復讐法適応を望む中、執行者に選ばれたのは三人。
三人それぞれに従来の判決か復讐法かを選び、多数決でどちらかが決定される、という。
自分だったら、どうするだろうと考えると、その選択はやっぱり難しい。無罪に
なるのは理不尽で耐えられないけれど、自分が執行者にならなければいけないのは
・・・やっぱり、キツイ。愛する人を殺されたら、そんな感情は吹っ飛んでしまう
のかもしれないけれど。

多分、読者の中には、『復讐法』自体に抵抗がある人もいると思う。けれども、現行の法律だと、
どうしても加害者側を守る意識が強く、被害者遺族を蔑ろにしているように思えて
ならないことが多々あるので、犯罪抑止の為にも、こういう法律が出来る世の中が
あってもいいのかもしれない、とは思いました。世界には、復讐が認められている国も
あるらしいですしね。ただ、倫理的にいえば、リアリティがあるとは言いがたいでしょう。

こういう話を読むと、何が正しいことなのかわからなくなりますね。復讐をしたって、
死んだ人は帰って来ない。何も救われないかもしれない。それはわかっているけど、
でも・・・。
最後の文乃の決断は、とても人間らしいものでした。彼女の人生がこれからどうなるのか、
それはとても気になるところです。

ページ数の割には、どっしり読み応えのある一作だったと思います。デビュー作
としては十分及第点の内容ではないでしょうか。それぞれの作品に瑕疵がない訳では
ないけれど、リーダビリティもありますし、今後を期待させるには十分の筆力があると
思いました。